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酪農試験場

時の話題:3号の1

根釧農試 研究通信  第3号

1993年3月発行)

**時の話題**

1.「第4回国際家畜環境シンポジウム」に参加して

酪農施設科

 7月4日より7月17日まで、イギリスで開催された第4回国際家畜環境シンポジウム(ILES4)に出席するとともに、ノルウェー、オランダ両国の畜産現場を垣間見た。日本からは筆者と当場酪農第二科の扇研究員を始めとして10数名が参加した。英国以外のツアーには7名が参加した。

この家畜環境シンポジウムは、ASAE(米国農業工学会)が主催し、4~5年に1回の間隔で開催されているものである。前回は、カナダのトロントで1988年に開催され私と扇研究員が参加した。

〈ROYAL SHOWとILES4〉

 シンポジウムはロンドンの北西約150㎞にある、ワーリック大学で7月6日~9日の4日間で開催された。シンポジウムと同時期に、イギリスの農業祭とでも形容できるもROYAL SHOWも開催(5日間)され、シンポジウム参加者は無料で入場できた。このROYAL-SHOWのために特別のフィ-ルドが用意されており、SHOW以外のときには、各種の研修が行われている。SHOWでは新しい農機具の展示デモンストレ-ションが行われるだけでなく、釣りの競技や講習、削蹄のデモンストレ-ション、牛、馬、羊などの共進会、毛がり競争などなど、とても1日では見学できないだけのボリュームがある。会場には王室専用のハウスが用意されているなど、ROYALと名がつくことがわかるというものである。1日歩き回って足が棒になってしまった。 

 シンポジュウムは、15のセッションについて約200名が参加して行われた。豚を使った環境試験や、コンピュターシミュレーションが多く見られた。傾向としては、環境が家畜の行動に与える影響、建物や取り扱いが家畜行動に及ぼす影響など家畜福祉系の演題が多く見られた。また、空気の質に関する研究や、環境と生産効率など基礎的な研究も多く発表されていた。

 日本からは6課題の発表があり、デンマーク在住の高井氏(国立農業工学研究所)の発表や、日本のハウス豚舎の紹介を英国の研究者が行うなど日本に関する研究発表も多く見られた。

 乳牛関係では、ミシガン大学のビカート教授によって、フリーストール自然換気牛舎における1頭あたりの壁面開口面積が提案されるなど、現場農家の試験研究の集約による基礎数値の提案など参考となった。

 バンケットやウエルカムパーティでは、昨年の米国への海外研修でお世話になった方々に再会でき、その時に確認できなかったことを話すことができ有意義であった。特に、牛床素材の検討、敷料素材と糞尿処理問題などはこれから解決しなくてはならない問題で、日本での研究の成果に期待すると言われた時には、アメリカに行けばなんでも解決できるという風潮に自分も流されかかっていると気づかされ、反省した。

 また、農業工学系の筆者と獣医である扇研究員の組み合わせは、家畜環境・施設の研究を進める上で有益であるから、今後も一緒に試験研究を進めるようにとのアドバイスをいただいた。

〈シルソー研究所〉

 シンポジウム後は、ロンドンの北東約120㎞の片田舎にあるシルソー研究所を訪問した。土曜日にもかかわらず、シンポジウムの現地事務局長でもあったブーン氏他3名と奥様まで出勤していただき歓迎を受けた。 スライドでの概要説明とビデオによる搾乳ロボットとブロイラハーベスタ(確かに「収穫」している)の試験状況の説明を受けた。その後、画像解析処理研究室の案内とデモンストレーションを始め、舎内環境、特に換気による空気の流れをシャボン玉を使ってビジュアルに表現できる実規模の実験装置には、その研究手法と施設の大きさの両方に驚いた。

 さらに、EC内でのアンモニア発散防止の取り組みとして、畜舎からどれだけの量のガスが発生しているのかを、ワゴン車程度の大きさの測定車で現地農家に入り計測しているとのことであった。このプロジェクトはオランダ、デンマーク、ドイツとイギリスの合計5研究所で行っているもので、1週間に約1戸のペースで1箇所年2回計測している。これと同時に、連続計測する畜舎もあると言うことで、データの量とプロジェクトの規模の大きさにまたまたびっくりである。

 研究所の図書館が18世紀に再建された、重要文化財級にお城の中にある。何とも驚きである。

〈ノルウェーの酪農〉

 ノルウェーでは北農試の萬田氏の紹介により、モー氏に乳製品工場と酪農家3戸の案内をしていただいた。

 ノルウェー酪農の概要は次のとおりである。

 1戸あたりの平均飼養頭数は13頭で、平均土地面積も12~13ha程度と小規模である。南西部は比較的気候も温暖で土地条件も良いので穀物が栽培され、酪農は気候のやや厳しい西海岸に分布している。乳価は3.40~4.40kr(1krは約15円)で乳質により変動する。生産はクォータ制がとられ、政府の保証量は1.783千キロリットルで1992年は1,783千キロリットルであった。クォータは農家間で直接売買はできない。「農協」に所定の価格で売り、クォータの必要な農家は「農協」から購入する。

 乳牛1頭あたりの平均乳量は約6.000リットルで最近は6.400リットルに増えている。7月から8月にかけて分娩を行う季節分娩が行われている。濃厚飼料の給与量は、乳量20㎏に濃厚飼料4~5㎏で、追加はこれを越える乳量2.5㎏毎に1㎏の濃厚飼料を増量するのが一般的である。

 搾乳方法は洗浄後1頭1布で拭き、30秒から1分後ミルカを装着する。自動離脱装置を利用しているのは約5%の農家である。搾乳後のデッピングは実施していないし、推奨もしていない。

 動物福祉の観点から、1995年より夏期の6週間、1997年から8週間は屋外の草地に牛を出さなければならないという規制が始まる。

 牛舎は2階建てで、成牛、育成牛、パーラ、サイロなどがすべて一つの建物の中に納められている。牛舎や納屋の色は赤く塗り、住宅は白く塗る場合が多い。住宅や牛舎はほとんど木造であった。

 農家は子供が継ぐ場合が多く、自分の子供がいないときは親戚が継ぐということである。

 牛舎の換気は、天井に換気扇を取りつけて、入気を行っているものや、壁面の小さな換気扇で行っており、充分とは言い難い。特に、天井から入気している場合には、2階の飼料調製室のほこりの多い空気が舎内に入るため、天井がかなり汚れていた。換気量の少ない中で育成牛と親牛を一緒に飼うなど、トラブルの原因になりそうであったが、現在は大きな疾病の発生もなく問題はないとのことであった。

〈ノルウェーの酪農家〉

1.ダク&カダ牧場

 婦人の両親から農場を買い、1991年にフリーストールに移行し成牛21頭を飼養し、クオータは92tである。農地は32haで牧草とコーンを栽培し、木製のサイロとラップサイレージを利用している。糞尿処理はスラットフロアでスラリー処理である。糞用散布は水を加えて、1haあたり40tを散布している。

 パーラは5頭単列のヘリーボーンパーラで、コンピュータ制御の濃厚飼料自動給飼機を牛床間に設置して利用している。作業は夫婦で一緒に行うが、婦人だけでも一通りの作業ができるようにしている。

 1992年の乳房炎牛の発生は2頭であった。

2.エグバーグ牧場

 2年半ほど前から親子で経営している。息子の奥さんは秘書として会社に勤めている。酪農だけでなく、麦などの畑作物も栽培し、コンバインを自分で所有している。つなぎ式で成牛22頭を飼養し、育成牛50~55頭、肉牛、養豚も行っている。搾乳は1人3ユニットで行っている。1頭あたりの平均乳量は7,000㎏である。バルククーラを早くから導入し、乳質に配慮してきた。

 飼料の給与は1階の天井に設置されたコンベヤに、2階からサイレージを落として串状のゲートを操作して自動給与を行っている。

 昨年は日本からの研修生3名を受け入れており、日本に対しても親近感をもっている。

3.キゼリッド牧場

 10年前に改修した。妻の両親から牧場を買った。25頭を飼養しクオータは150tである。28haの牧草と10haのコーンを栽培している。サイレージとナトリウム処理をした麦桿を給与している。訪問したときは全頭乾乳中であった。

 ナトリウム処理は麦桿のベールを麦桿重量の1.5%のUREAの溶液に1時間ほどつけた後、約4日間放置して給与するものである。ナトリウムによる環境汚染を防ぐために麦桿を浸した溶液は別のピットに貯留して、減少した分だけを追加して使用している。

〈オランダの畜産〉

 オランダでは世界4大育種会社のユルブリッド社と配下の農家を訪問した。場所はドイツ国境に近い所で、アムステルダムから列車で約1時間半である。訪問してすぐにマルチプロジェクションの日本語解説付きで会社概要を見せられ、企業戦略を強く印象付けられた。

 糞尿処理と、個体識別に絞って論議を行った。豚舎における糞尿処理では、尿洗浄と固液分離、液分の循環利用と蒸散処理を組み合わせた方式が紹介された。発酵処理はECの法律で認められていない。個体識別では、注入式のIDには屠殺時に問題があるが、処理データの多さから普及の可能性が大きいとのことである。また、豚用の濃厚飼料自動給飼機の利用は、敷料の少ないオランダではうまく行かなかったが、敷料を沢山利用しているイギリスではうまく機能しているとのことであった。

 訪問した養豚農家は住宅と豚舎がすぐ隣であったが、臭いは少なかった。換気方法は、外気を直接豚房内に入気するのではなく、一度豚舎内の通路に入気し多孔質材料を使った天井から入気している。

 また、尿の量を少なくするために液餌(ウエットフーディング)を給与していた。そのため、糞尿の性状はコロコロとしたものであった。糞尿の散布にはチゼルタイプの糞尿インジェクタを使っているが、自己所有の土地面積が少ないため、糞尿1立方メートルあたり17ギルダ(約1,000円)を支払って散布している。

 

(最後に、ノルウェーでの研修先の紹介と、ホテルの予約までしていただいた北農試の萬田様には紙面を借りて御礼申し上げます。)