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酪農試験場

根釧農試研究通信第2号:品種1

根釧農試 研究通信  第2号

(1993年3月発行)

**新牧草・飼料作物優良品種および馬鈴しょ新品種の紹介**

1 ばれいしょ輸入品種「アスタルテ」

「アスタルテ」はホクレン農業協同組合連合会と北海道澱粉工業協会が共同でオランダから輸入した品種です。道内農業試験場における輸入品種等選定試験、現地試験圃における試験などの結果、でん粉重が多く、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つなどの長所が認められ、平成5年にでん粉原料用の北海道の奨励品種に認定されました。(原名:Astarte)

1. 特性の概要

「アスタルテ」のそう性は中間型で、茎長は「紅丸」よりも長いです。花の色は赤紫で、花弁の先端は白です。花粉の量は中程度ですが、自然結果はまれです。塊茎は卵形で、目はやや浅いです。皮は白黄色でやや粗く、肉は黄白色です。

初期生育はやや遅く、塊茎の早期肥大性も「紅丸」より遅いです。枯凋期は「紅丸」や「コナフブキ」より遅い晩生です。上いも数(20g以上)は「紅丸」並に多いですが、一個重がやや小さいため、上いも重は「紅丸」の9割程度です。しかし、でん粉価は「コナフブキ」よりはやや低いものの「紅丸」より4~5ポイント高いので、でん粉重では「紅丸」より多収となります。「アスタルテ」はジャガイモシストセンチュウに抵抗性を持っており、シストの形成がほとんどみられないため土壌中の線虫卵密度が低下します。疫病に対しては「コナフブキ」同様、抵抗性遺伝子R1R3を持っていますが、「コナフブキ」を侵す疫病菌のレースが広く発生しているので、初発生および病斑の拡大経過は「コナフブキ」や「紅丸」並です。疫病菌による塊茎腐敗に対しては「紅丸」よりやや弱く「農林1号」並です。そうか病に対しては既存品種同様、抵抗性はありません。Yウイルスによりえそ病徴を示すので、罹病株の判定は容易です。

でん粉特性については、灰分およびりん含量は「コナフブキ」より少なく「紅丸」並です。平均粒径は「コナフブキ」よりやや大きく「紅丸」並です。でん粉が糊化し始める温度は「紅丸」並で、最高粘度に達する温度は「紅丸」よりやや低く「コナフブキ」並です。最高粘度は「コナフブキ」より低く「紅丸」並ですが、ブレークダウンは「コナフブキ」より小さく「紅丸」並で、粘度の安定性が高いです。ゲルの特性も「紅丸」並に良好です。総じて「アスタルテ」のでん粉は「紅丸」並の良好な特性を示します。

2. 適応地帯と栽培上の注意

適応地帯は十勝、北見、根釧地域です。普及面積は5,000haを見込んでいます。栽培にあたっては、次の3点に注意が必要です。

①塊茎の肥大およびでん粉価の上昇は遅いので、浴光催芽によって生育の促進を図って下さい。②疫病の発生過程は「紅丸」に類似するので、疫病の防除は「紅丸」に準じて行って下さい。③小いもが多いので、掘り残しのないように収穫時に注意して下さい。

ジャガイモシストセンチュウの発生面積は平成3年には6,649haと北海道のばれいしょ作付面積の10%を超え、なおも拡大傾向にあります。でん粉原料用のジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種としては昭和61年に「トヨアカリ」が育成されましたが、生育後半に地上部がウイルス病のように巻き上がる欠点があり、採種での抜き取りが難しいなどの理由により普及が進んでいません。そのため発生地帯でも抵抗性を持たない「紅丸」や「コナフブキ」の作付が中心となっており、被害が大きくなっています。「アスタルテ」はジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持ち、土壌中の線虫卵密度の低下に役立ちます。また、でん粉重は「紅丸」を上回るので、ジャガイモシストセンチュウ発生地帯以外でも作付されることが期待されます。さらに、でん粉の特性も「紅丸」並に良好なので、ばれいしょでん粉のあらゆる用途に寄与するものと期待されます。

表 生育および収量調査

試験年次は平成元年~4年。十勝農試の平成3年は未供試である。

枯凋期欄の( )は霜枯凋、[ ]は収穫時に未枯凋の年次を含む。