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酪農試験場

根釧農試研究通信:4号の1

根釧農試 研究通信  第4号

1994年3月発行)

研究成果

1.休日確保型酪農ヘルパ-組織の運営安定化

経営科

1 試験のねらい

平成2~4年にかけて全道で53の休日確保型酪農ヘルパ-組織(一部緊急対応も併用)が設立されました。

この背景には年に何日かでもよいから休みを取りたいという農家の切実な思いがあったわけですが、これほど急激に広まったのは“酪農ヘルパ-円滑化対策事業”の影響が大きかったとみられます。いまのところ休日取得は選択的(すべての農家が休みを取る訳ではない)であるとともに、専任ヘルパ-を雇用するため人件費が固定するという運営上の難しさがでてきます。そこで、休日確保型ヘルパ-組織の実態調査を通して、今後の運営安定化の方策を検討しました。ここでは現実性があり、また運営内容に差があると見られる農協直営型と利用組合型を取り上げました。

2.組織目的・対応範囲・運営責任

休日確保型酪農ヘルパ-組織の運営を安定化させるには、利用農家、ヘルパ-双方がヘルパ-組織の目的、対応範囲及び運営責任をしっかりと認識することが基本になります。通常これらは組織規約や利用規定などで定められていますが、実際にどの程度効力を発揮するかはこれらの運用の仕方にも影響されます。農協直営型では全組合員を対象とする緊急対応を外すことはできないため、緊急対応と休日対応とが並存して目的や対応範囲が曖昧になり易いと考えられます。利用組合型では役員が利用者からのクレ-ム処理など具体的に組織運営に関わることで、ヘルパ-組織に対する理解を深め、運営に対する責任感をも培うことにつながると考えられます。ヘルパ-組織として優先すべき利用目的について、利用農家がどう考えているかを見ると明らかに両者で差があります(表1省略)。

3.ヘルパ-要員の採用・処遇

将来的にわたってヘルパ-要員を安定的に確保するには、ヘルパ-という職種が身分的・経済的に安定すると同時に社会的にも認知される必要があります。調査対象とした農協直営型の場合は農協職員であるヘルパ-として採用する場合と現業部門からの畏動で確保しますが、利用組合型の場合は農協職員として採用して利用組合へヘルパ-として出向しています。新規就農希望者が技術を習得し地域になじむステップとしてヘルパ-を経験することはよいのですが、これだけではとても賄いきれそうにありません。かりに新規学卒者やUタ-ンで就農する人まで含め、すべて就農前にヘルパ-を経験するとしても全道で90~160人程度にすぎません。全農家がつき1日休みを取ると想定すると毎年190人弱の補充が必要ですから対応しきれません。現状でも就農希望のないヘルパ-(専業ヘルパ-)はかなりいますが、将来的にも専業ヘルパ-に依存せざるを得ないと思われます。専業ヘルパ-といっても肉体的・精神的な面から40才前後がヘルパ-として働ける限度と考えられ、このあとの身分・仕事の保障が非常に重要になります。身分保障という点では現状では農協直営型の方が安定していると考えられます。

4.利用調整・料金設定

さきに農協直営型の場合は緊急対応も並存するといいましたが、そのことは利用調整ひいては利用の安定化にも影響してきます。緊急対応するにはいつでも要望に応えねばならないため、計画段階でヘルパ-の稼働を100%にするわけにはいかず、空きを残して置かなければなりません。同じ理由から利用申込の変更やキャンセルもある程度(事例では10日前)可能ということになります。これらのことは、運営責任が農協にあるということとあいまって、農家は自分の都合のいいようにヘルパ-を利用しがちになり、結果として利用は不安定になり(図1省略)、稼働率も低下します。さらに休日取得目的のヘルパ-利用は選択的で経済条件の変化に反応しやすい性格がありますから、組織目的や運営責任に関する認識が曖昧な場合はいっそう不安定になります。したがって、利用の安定化という点からは、利用組合型の方が優れているといえましょう。

なお、利用の安定化を図る上で、利用料金は重要な要因です。さきにみたように、今後は専業ヘルパ-をも想定しなければなりませんが、就農を希望するヘルパ-とは賃金変動のパタ-ンが違うため長期的にも安定的な料金設定の方法を考える必要があります。

5.地域的位置づけ

休日確保型ヘルパ-組織は、その選択的性格からみて利用農家の責任において運営し、自立すべきものでしょう。しかし現実においても、近い将来においても完全に自立することはそう簡単ではないと思われます。したがって、何らかの外部支援が必要なのですが、その基礎は酪農ヘルパ-組織の安定的な運営が地域(農業)にとってどういう意味・効果を持つかを地域に示すことが必要です。これには、さまざまな側面があると思われますが、それらを1つずつ積み上げていく必要があるでしょう。ヘルパ-の地域的効果として、共通的に最も重視されているのは健康問題と含めた後継者の確保でした。

6.運営安定化

以上、組織目的・運営責任の認識や利用の安定化では利用組合型が、ヘルパ-要員の採用・処遇については農協直営型が望ましいことがわかりました。これらを総合的に考えると、身分保障等では農協との連携を取りつつ、現状では利用組合型という形態をとることが望ましいと考えられます。また運営安定化のための具体的な対策を、ヘルパ-組織、利用農家等対応主体ごとに整理しました。そのうち重要なものを挙げると、ヘルパ-組織では年齢や経験年数に応じた社会的水準の待遇、ヘルパ-退役後の身分・仕事の保障、作業範囲の明確化と周知徹底、利用農家の雇用者意識の醸成、ヘルパ-給減の多様化への対応等、また利用農家では役員の実践的運営参加による意識向上、経営の効率向上と安定化等があります。