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酪農試験場

時の話題:5号の1

根釧農試 研究通信  第5号

1995年3月発行)

**時の話題**

1.海外視察 米国東北部とカナダオンタリオ州の酪農事情

酪農施設科

はじめに

昨年の9月に約17日間の日程でウィスコンシン、ミシガン、ペンシルバニアの各州とカナダオンタリオ州の農家22戸でフリーストール・ミルキングパーラを調査する機会を得ました。

1.搾乳施設と作業状況

搾乳頭数とパーラの規模を見ると、100頭では6頭複列、200頭で8~9頭複列のパーラ規模でした。能率は6頭複列で44~57頭/hr、8頭複列で78~87頭/hrでした。作業者数は10頭複列までは1名で行っています。全農家でプレディッピングが行われ、流水での乳房洗浄はしていません。約半数の農家で前搾りをしていません。このようにパーラ規模は比較的小さく、1名で作業を行い作業手順の簡素化と熟練により非常に高能率で搾乳が行われ、ミルキングパーラの最大の特徴である省力・高能率作業が実現されています。

2.群分け

群分けは3群以上が最も多く1群管理は100頭以下の農家です。搾乳牛は初産牛と2産以上に分け、さらに後者を乳期によって分けています。

3.牛床、隔柵、飼槽

牛床はゴムチップ入りマットレスが7割強と多く、ついでオガクズ、砂となっています。木、タイヤ埋め込み、火山灰つき固めの牛床は見られません。敷料にはオガクズ、細断わらが用いられ、敷料を使わないと牛体を清潔に保つことは難しいようでした。ネックレールは群毎に設置場所を変えているわけではなく牛床後端から150cm~165cmで固定されています。隔柵形状はサスペンドU型が多くミシガンは我が国ほど一般的ではありませんでした。

屋内給飼の飼槽構造はフラット型でバリヤ形式はセルフロックが多く、バリヤ基部のコンクリートは高さ50cm、厚さ14~20cmでした。

給水器は横断通路に設置され、ボール密閉型給水器はほとんどなく中が見える水槽型が多く見られました。水の交換が容易な転倒型も使われています。

4.糞尿処理

除ふんはトラクタスクレープ方式が多く、ついでスラット、バーンスクレーパ、フラッシュでした。スラリー処理が主流で貯留施設・方法はスラット式も含めてコンクリートピットが多く、ラグーンはミシガンで多く見られました。ふん尿固液分離はフラッシュ農家で使われているだけです。

5.換気

古い牛舎を改造した2農家以外はオープンリッジ(セミモニタなど含む)の壁面開放型の自然換気牛舎でした。壁面だけでなく妻面も大きく解放し、開口部にはカーテンが設置されています。スラット牛舎では大型の換気扇で地下ピットの換気を行っていました。夏期間の暑熱による乳量減少を防ぐために大型ファンを設置している農家もあり、また、飼槽部分に散水装置を設置している農家もペンシルバニアなどを中心に見られました。

6.牛体汚染防止

牛体の汚れ防止のために尻尾を切る(断尾)農家も多いが、尾が長いことによる汚染部分は背中などで乳房は余り汚れていません。また、断尾をしている農家の牛が特にきれいというわけではありませんでした。

今回の調査で牛体がきれいな農家は2戸でいづれも断尾していません。一つは牛床に砂を用い高泌乳牛群のみファンを設置し、除ふん回数は3回で牛床上の糞は作業時に頻繁に落としています。他方はマットレス牛床にオガクズの敷料で、除ふん作業はバーンスクレーパをタイマーで動かし牛床の糞は頻繁に落としています。また、通路中央に向かって勾配をつけ牛床側に尿がたまらないようにしていました。

最後に

規模拡大しか生き残る方法はないといった一方的な情報で自信を失いかけている農家が多いですが、今回の調査では40~600頭規模の農家をみて規模が違っても兄弟や親子で経営を行い、何よりもどの農家も自分の経営に自信をもって生活をしていることにほっとするとともに、さまざまな経営形態が存在して当然であると感じました。

最後に今回の調査は社団法人畜産技術協会の「新搾乳システム導入事業」の平成6年度海外調査の一つとして、北海道大学農学部近藤誠司先生とともに行ったものです。ここに記して関係各位に御礼を申し上げます。