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酪農試験場

研究通信第6号 研究成果

根釧農試 研究通信  第6号

1996年3月発行)

研究成果

1.高泌乳牛を対象にした集約放牧技術の経営経済的評価(図表省略)

経営科

1. はじめに

乳牛飼養の多頭化が進むなかで放牧の利用率は低下してきました。しかし、国際競争力が問われるなかで、低コスト化、省力化が期待される放牧利用への関心が高まりつつあります。ここでは高泌乳牛 9,000kgを対象に開発した集約放牧(1日15時間放牧)技術について経営経済的効果を検討しました。

2. 研究の方法

集約放牧技術の経営経済的評価をするために次の三つの経営モデルを構築して比較分析しました。

(1) 地域の標準的経営モデル

精査農家および地域の実態を考慮した1日4.5時間放牧の飼養経営。

(2) 通年舎飼経営モデル

地域の標準的経営モデルを通年舎飼とした飼養経営。

(3) 集約放牧経営モデル

実証試験と既往の成果による集約放牧技術を導入した飼養経営。

なお、比較分析上各経営モデルとも、経産牛頭数50頭、育成47.7頭、スタンチョン飼養、乳量水準9,000kgとしました。

3. 研究成績および考察

(1) 放牧の実態と問題点

根釧地域の代表的な標津町および標茶町の89戸の調査結果を要約すると次のとおりでした。

① 放牧期間は表1のとおり5月23日から10月20日であり、放牧形態は乳牛が4.8時間の時間制限放牧、乾乳牛は一部の時間制限放牧を除いて育成牛との昼夜放牧が多くみられました。

② 放牧を利用する理由で最も多かったのは省力化であり、ついでストレス解消、乳量向上、低コスト化、草地に余裕があるの順でした。

③ 今後の放牧利用については、標津町、標茶町とも減少傾向がみられました。

④ 放牧地を減少ないし廃止する理由としては、乳量のムラ、乳成分の低下、草地に余裕がない、手間がかかる、放牧の有利性が分からないの順でした。とくに、放牧と乳成分の関係については分からないとする回答が多くみられました。

⑤ 移動電気牧柵は、普及して日が浅いこともありますが、固定しての利用が多く、その機能が発揮されていません。なお、放牧の功罪や施設利用のしかたが究明されていないことなどが、放牧に対する不安感を高め、縮小および廃止の方向に結びつけているものと考えられます。

(2) 集約放牧技術の経営経済的効果と考察

① 放牧期の5月下旬から10月中旬における所要労働時間は図1のとおり集約放牧経営が2,116時間であり、地域の標準的経営より9%、通年舎飼経営より15%少なく省力的でした。とくに、牧草収穫期における労働ピ-クの緩和は、連続する厳しい収穫・調製作業の軽減、雇用労働費の軽減に結びつき、集約放牧経営の省力効果は大きいものと考えられました。

② 集約放牧経営の農業所得額は表2のとおり1,298万円であり、地域の標準的(1日4.5時間)な放牧飼養経営に対して9.7%、通年舎飼経営に対しては11.8%増加します。

③ 家族労働10時間あたり農業所得額は集約放牧経営が26,656円であり、地域の標準的放牧経営に対して11.5%、通年舎飼経営に対しては13.8%増加します。

④ 草地10a当たり農業所得額は通年舎飼経営の22,538円に対して、地域の標準的経営が10.5%、集約放牧が4.0%減少します。

⑤ 牛乳100kg当たりの生産原価(自家見積労賃含む)は表3のとおり集約放牧経営が5,666円であり、地域の標準的放牧経営より4.9%通年舎飼経営より5.8%低コストでした。

⑥ 総じて、放牧飼養経営は通年舎飼経営より省力化および所得向上の視点からみて経営経済的効果があります。なお、放牧飼養経営でも1日4.5時間の制限放牧よりは1日15時間の集約放牧技術を採用した経営の効果は高くなっています。

なお、今後の酪農を考えると、自由化の進行にともなって生産資材費の低下は見込まれるものの、乳製品の価格低下により乳価および個体価格は低下方向に連動するものと思われます。ついで、高齢化に伴う労働力の減少、さらには他産業との関連からも労働時間の短縮や、糞尿の環境への影響が問われるなかでは、このままでは平均的にみると農業所得が低下するものと思われます。

ただし、府県における酪農の低下傾向をはじめ、道内においても後継者不足と高齢化が進行するなかで農家戸数は減少し、草地の有効利用および所得の向上からも1農家あたりの草地面積および乳牛飼養頭数は、これからも緩慢ながら拡大していくものと考えられます。とくに糞尿による環境汚染の問題が拡大するにしたがって、1頭当たりの草地面積は増大し、放牧の利用率は平均的には高まっていくものと考えられます。

しかし、そのためには、労働力をカバ-するためこれまで以上の省力化が求められるとともに、規模拡大過程で分散してきた農地について、公的な機関が主体となり地域的な視点で交換分合を推進していくことが望まれます。さらに、酪農経営が発展していくうえで、糞尿処理・利用のあり方、ヘルパ-のあり方、コントラクタ-のあり方、協業化・法人化などの問題がこれまで以上に重要な課題となるものと考えられます。

2.搾乳自動離脱装置の作動特性(図表省略)

酪農施設科

1.背景とねらい

搾乳自動離脱装置は搾乳終了時にある一定の乳汁流量になると自動的にユニットを乳頭から外す装置で労働軽減や過搾乳防止を目的に普及が進んでいます。しかし、この装置の離脱条件と個々の泌乳速度との関連性については明確ではありません。自動離脱装置が乳頭から外れるタイミングは機種によって異なりますが、およそ毎分200cc~500ccです。この離脱するタイミングが設定値と異なっていたり、ばらついたりすると過搾乳や牛に対するストレスの原因になったりします。

そこで自動離脱装置の作動特性を調査し、タイプ別の性能を明らかにしました。また、作動特性を調査する上で必要な流量制御が可能な点検システムを開発しました。

2.試験方法

①設定された乳汁流量で離脱されるかどうかの離脱タイミング(離脱時の流量)を測定するため、流量制御装置の開発を行いました。この装置で段階的に流量を変えていき、ユニットが離脱されたときの流量を離脱時の流量としました。

②この流量制御装置で流量を制御したとき、設定値と実際に流れている流量の差を測定しました。 ③ 流量制御装置を使い、自動離脱装置の離脱時の流量を測定しました。この測定には搾乳直後の牛乳を使い、実際の搾乳条件と変わらないようにしました。牛乳が異なると電気伝導度が異なるので機種毎に同じ牛乳を使って、数回調査を行い、設定値との差と測定値のばらつきについて調査しました。

④自動離脱装置は離脱のタイミングの検知方式別に電気伝導度式、容積式、光学式の3種類に分けられます。今回、試験した機種は繋ぎ飼い用が7機種ですべて電気伝導度式です。ミルキングパ-ラ用は13機種で電気伝導度式が5機種、容積式が7機種、光学式が1機種です。

⑤流量を検知する部分が牛乳の流れを妨げていないかどうかを調べました。自動離脱装置を装着したときとしなかったときのミルククロ-の内圧を、乳汁流量を毎分3.0リットルの条件で測定しました。

3.試験結果

(1) 流量自動制御装置の開発

流量制御は弁を動かす電子式サ-ボアクチュエ-タと電磁流量計をデジタル指示調節計を介し、コンピュ-タと接続しました(図1)。流量制御用ソフトウエア流量曲線を入力しておけば、再現できるようにしました。コンピュ-タから1秒毎にあらかじめ入力した流量値をデジタル指示調節計に送信します。デジタル指示調節計では送信された流量値と電磁流量計からの実際に流れている流量値を同じにするようにサ-ボアクチュエ-タに信号を送り、弁を動かします。この装置では毎分0~4.0リットルの流量を制御できます。

(2) 流量制御装置の精度

この装置による流量制御は電磁流量計から流量計測からのサ-ボアクチュエ-タによる流量制御までの時間を要するため、設定流量より実乳量がやや遅れて推移します(図2)。しかし、離脱時の流量を測定するレンジ(毎分200cc~500cc)では設定流量と測定流量の差は小さく、離脱時の流量を正確に測定できることがわかりました。

(3) 自動離脱装置の作動特性

電気伝導度を直接、離脱時の流量検知に用いている方式では同じ乳汁に対する作動流量のばらつきは小さくなりますが、乳汁が変わると電気伝導度も変わるので設定値との差が変化しやすくなりました(図3)。電気伝導度を乳量計として使用している機種では、離脱時の流量ではセンサ誤差が大きくなり設定値との差が大きくなる機種もありました(図3)。光学式などのように乳汁通過間隔により離脱のタイミングを決めている機種ではセンサ部で乳汁の流れの状況が変化しやすいため、誤差が大きくなる傾向にありました(図5)。ミルキングパ-ラ用で電気伝導方式の機種では離脱時の設定流量が0.3リットル/分以下の機種で、ばらつきが大きくなる傾向にありました(図4)。ミルキングパ-ラ用で容積式のタイプでは設定値に対する誤差は小さく、ばらつきも15%以下で小さくなりました(図5)。

離脱時の流量のばらつきが大きいと、同一の牛であっても毎回の搾乳時に終了するタイミングが異なることになります。本課題で開発した流量制御装置を使って自動離脱装置の点検を行うことで、搾乳終了時の流量やばらつきを計測できることがわかりました。

自動離脱装置を装着したときとしない時でのミルククロ-内圧の差は容積式では基準となる3kPaを越えましたが、電気伝導度方式、光学方式では3kPaを越えたのは2機種でした。