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酪農試験場

時の話題:6号の1

根釧農試 研究通信  第6号

1996年3月発行)

**時の話題**

1.ニュージーランドの酪農家の姿(海外研修)

酪農第一科

1.世界を意識するニュージーランドの酪農家

今、私が来ているニュージーランドのマッセイ大学では、キャンパスに隣接した試験農場を乳牛だけでも3つ持っています。いずれも搾乳牛200頭、500頭といった規模で、放牧試験も250頭を使っています。ここの畜産学科の掲示板には世界の乳価を比較したグラフがいくつか貼ってあり、この国の技術者は世界的にトップクラスの低コストで牛乳生産をしていることに誇りを持っています。そして、国際価格が乳価に反映するこの国の酪農家は、その変動に敏感で乳価が下がると肥料散布を減らして減産し、上がるとサイレージなどを購入して増産すると言います。現在の乳価は、1994/95年シーズンでミルクソリッド1kg(乳脂肪と乳蛋白の合計を乳固形分としており、成分値は日本より高くおよそ8~8.5%)当たり$3.32であり、日本式に直すと原乳1㎏当たり約20円という計算になります。

乳価を比較する時にはその国の物価水準を考慮しなくてはなりませんが、ニュージーランドは食費が安くその他は北海道と同じ程度というのが生活実感です。スーパーでの牛乳の価格は1リットル入りのパックが90円ぐらいであり、(2リットルパックがよく売れている)日本の半額です。しかし、農家の受け取る乳価が約20円/kgであったことを考えると高い価格であり、中間段階で日本よりも多くマージンが吸い上げられているのだと思われます。

2.ニージーランドの酪農家の経営収支

中堅どころの酪農家では、180頭の搾乳牛を搾り、刈り込まれた芝生に囲まれた住宅に住み、奥さんは働ける環境(子供等)でありさえすれば一緒に働きますが必須の労働力としてカウントされていません。200頭を越えるとワーカーを一人雇うようです。

何か絵に描いたような描写をしましたが、こうした酪農家の経営収支を統計資料で(1993/94シーズン241戸の抽出調査)示しますと、搾乳頭数が175頭とこの国の平均的な頭数であり、総収入が1,409万円、総経費が983万円で利益は426万円となっています。($1=70円で計算)。決して高い所得をあげているわけではなく、所得率も高いわけではありません。借入金の返済も154万円と経費の中では最も大きくなっています。特徴的なのは肥料代が145万円と飼料費よりも多くなっていることです。しかもこの統計の飼料費125万円は“草地および飼料費”となっており購入飼料の他、貯蔵飼料調製と草地更新のためのコントラクターの経費、そして放牧の経費も含んでいます。日本の酪農家の人から見たら「こんなに少ないの!」と言われるかも知れませんが、この国では都市労働者も似たような所得であり格別低いわけではありません。1994年の労働者の所得統計を見ても年収約250万円程度ですので、酪農家は勤労者の1.7倍の所得を得ていることになります。ニュージーランドでは今、酪農家は儲かる産業として肉牛や綿羊から酪農に転換する希望者が多いそうで、そのための資金を銀行から借りられる人は優秀な農家ということになります。

3.風土を生かした酪農技術

「無畜舎で放牧による飼養、そして季節繁殖」

・・・これがニュージーランドでは酪農経営の前提になっています。したがって技術もその方向へ収斂して行き、放牧地で分娩させ、最初のほ乳期間を終えると放牧地で育成します。ミルキングパーラーが唯一の施設と言ってもよいくらいですから糞尿処理の時間もほとんどありません。そしてこうした飼養環境では当然のごとく、草の生産力が下がる冬期間には乾乳にあげる季節繁殖が取り入れられてきました。つまり、ニュージーランドの有利な風土を徹底的に活かすことが現在の低コスト酪農技術を形づくって来たと言えましょう。

ただし問題がないわけではなく、搾乳日数が短くホルスタインーフリージアン種の平均で217日となっています。この検定成績によると乳量は3,628リットル、乳脂肪率が4.45%、乳蛋白質率が3.49%となっています。ただし、搾乳牛には濃厚飼料を給与していない農家がほとんどですから、放牧だけでもこれだけ搾れると読むべき数字でしょう。

詳しい技術的な報告は別の機会にいたします。