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酪農試験場

根釧農試研究通信:7号の1

根釧農試 研究通信  第7号

1997年3月発行)

研究成果

1.乳中尿素窒素の暫定基準値の設定

酪農第二科

1 試験のねらい

乳中の尿素窒素は、飼料の蛋白質とエネルギ-のバランスの指標として飼料コスト低減、乳牛の健康、環境への窒素負荷量の低減などに有用です。近年、乳中尿素窒素を赤外線分析により測定できる機器が、道内でもいくつかの検査機関に導入され始めており、諸外国と同様に乳検成績の一つとして活用が期待されています。このため、道内2地域の測定値から乳中尿素窒素の変動要因を検討し、その判断基準となる乳中尿素窒素の基準値を作成しました。

2 試験の方法

1) 調査デ-タ

調査デ-タは、十勝農協連(十勝)および浜中町農協(浜中)の乳検実施時における固体乳の測定値を用いました。期間は平成7年8月~平成8年8月までとしました。これらのデ-タのうち泌乳日数10日以内および乳量5㎏以下を、さらに段階切断法により異常値を除外しました。

2) 分析方法

乳成分および乳中尿素窒素濃度の則定は、赤外線牛乳分析装置(Foss System 4000,Foss EIctric社)によって行いました。

3) 基準値

基準値の幅は、北海道農業共済組合が血液代謝プロファイルテストで採用している平均値±1SD(標準偏差)としました。

3 試験の結果

1)乳量、乳成分による変動

乳量、乳成分による変動では、乳量、乳脂肪および乳タンパク質による変動は明らかではありませんでした。乳糖率では、乳糖率が高い階層で乳中尿素窒素濃度が低い傾向が見られました。

2)体細胞による変動

体細胞による変動では、リニアスコア5以上の要注意牛では、十勝で10.8±4.7mg/dl、浜中で10.5±4.4mg/dlとなり、リニアスコア2以下の乳房健康牛に比べ低い傾向が見られました。リニアスコア3~4においても同様の傾向が見られたことから基準値の設定にあたっては、リニアスコア2以下のデータを用いることにしました。

3)産次、乳期による変動

産次、乳期による変動では、初産は経産に比べ低く、乳期が進むにしたがい高くなる傾向が見られました(図1省略)。このため基準値の設定にあたっては、全牛による設定とともに産次、乳期による設定も行いました。

4) 放牧による変動

放牧では、TDN摂取量に対してCP摂取量が過剰になり血中の尿素窒素が20㎎/dlを越えることが知られています。しかし、放牧期においても、放牧時間や放牧方法、エネルギ-飼料などの供給飼料の給与によって、血中尿素窒素が15㎎/dl以下になることが根釧農試における放牧試験により示されています。

浜中における放牧形態別の変動では、放牧により6~10月の乳中尿素窒素が高くなる傾向がみられ、放牧なしの14.1±4.1㎎/dlに対して、制限放牧で15.3 ±3.9㎎/ dl、昼夜放牧で16.9±4.1㎎/dlと昼夜放牧においてその傾向が明らかでした(図2省略)。このため浜中における基準値の設定では、放牧期における昼夜放牧とそれ以外に分けて設定しました。

5) 給与粗飼料による変動

十勝における給与粗飼料別の変動は、明らかではありませんでしたが(図3省略)、牧草サイレ-ジ給与により若干に高くなった月も見られ、今後の検討が必要と思われます。

以上の結果から乳中尿素窒素の暫定基準値を表1、表2(省略)のように設定しました。今回作成した基準値は統計的に求めた値です。しかし、今回示した基準値を超える場合、摂取飼料のエネルギ-と蛋白質がアンバランスになっているものと考えられます。