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酪農試験場

根釧農試研究通信:7号の6

根釧農試 研究通信  第7号

1997年3月発行)

研究成果

6.大規模酪農経営におけるフリーストール飼養体系の導入実態
1 試験のねらい
近年、酪農経営の規模拡大とともにフリーストール牛舎の導入が進んでいます。しかし、技術的にはこれまでの個体管理から群管理飼養技術の確立が求められていることや、経営的にも省力性、収益性など検討すべき課題が多いのが現状です。また、導入後の経営が必ずしも順調ではない例もあることから、経産牛頭数100頭程度の大規模酪農経営の移行初期段階での経営不安定性の要因とその実態解明を行いました。
2 試験の方法
経産牛頭数規模が100頭程度の酪農経営を中心に以下の調査を行ないました。
(1)フリーストール牛舎導入酪農経営の
概況および実態調査
(2)フリーストール牛舎導入酪農経営の
経営調査
(3)関係資料収集・分析
3 試験の結果
1)根釧地域の47戸のフリーストール牛舎導入経営の実態調査から、新たにフリーストール牛舎を導入した酪農経営では、牛舎への乳牛の収容率(牛床数に対する経産牛頭数)が低く、フリーストール牛舎導入5年目においてもまだ増産体制を整えていることが明らかになりました。
このため生乳生産量は一気に増加しないことから、頭数規模を大きく拡大した酪農経営の大きな不安定要因となっています(図1省略)。これは頭数拡大が自家増殖により行われることから、牛床を満たすための増頭に期間を要することや繁殖率の低下や疾病の発生などが大きな要因です(図2省略)。

加えて高齢牛など能力の低い乳牛を中心に、牛群の淘汰率が高くなることが平均産次数の低下(2.9産→2.6産)を招いています。このため平均的に見れば速やかな増頭が行い難い現状にあります。したがって、大幅な増頭を伴うフリーストール飼養体系への移行では、移行後の収入を確保するための事前の準備が求められます。また、乳牛償却費の低下などを図るために、移行時に産次数を低下させないような対応が必要となります。なお、大規模フリーストール飼養体系ではスタンチョン飼養に比べて1頭当たりの草地面積が少ない傾向が見られます(図3省略)。草地面積の不足は飼料購入や家畜糞尿問題に繋がることから、規模拡大時には余裕のある草地の確保が求められます。
2)フリーストール牛舎導入により1頭当たり労働時間が減少するため従事者1人当たりの飼養可能頭数は増加します。しかし、経産牛が100頭を越えると年間飼養管理労働が6,000時間に達するため、基幹的従事者が2人の場合には労働過重が懸念されます。経産牛100頭を越える場合には農業従事者数が3人から4人必要となり、ゆとりのある酪農経営の実現には労働力の確保が求められます。
3)成牛舎を50頭から100頭規模へと一挙に規模拡大したA経営をモデルに、フリーストール牛舎導入に伴う経営問題を整理しました。投資額はこれまでのところ追加投資を含めて9,000万円弱ですが、補助金額を含めるとやはり1億円を超えています。農業所得は移行後45年でも800万円程度で、移行後は経営が不安定であることが確認されました。現在の所得水準が低いのは生乳生産量が十分でないことや追加投資などによる償却負担の増加のためです。この点については、今後収容率(操業度)が高まっていけば基本的には解消されると考えられますが、移行期の資金的余裕は不可欠です。