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酪農試験場

時の話題:7号の1

根釧農試 研究通信  第7号

1997年3月発行)

**時の話題**

1.変貌を遂げるオセアニア農業の技術普及(海外研修)

専技室

1.形は変わっても普及は普及

海外研修からの帰国を報告した日、わが場長からある質問をされました。「ニュ-ジ-ランドでは公的な普及事業がなくなったと聞いているがそうなのか?」。実際、ニュ-ジ-ランドでは農業に限らずあらゆる事業が民営化されています。その事実はあまりにも有名なようです。

しかし、農家は有料化になっても自分の経営や技術の相談者として、信頼した技術員と契約しています。民営化されたニュ-ジ-ランドの技術指導において、そこに存在したのは単に技術の切り売りではなく、農家の経営全体を把握しなければできない技術指導でした。それは正に、普及そのものだと強く感じています。

2.変化するオ-ストラリアの普及活動

オ-ストラリアの普及事業は、州政府よって運営されています。以前は完全に公営の普及事業でしたが、政権の交替、財政赤字と対外債務の累積という事情により個別の技術指導は民間に、公共性の強いものや公共性の集団指導は公的普及というずるい考え方を導入してきています。そのため普及員が個別指導で現場に出ると「現場に出過ぎる」といってしかられるという、奇妙な現象が起きています。

オ-ストラリアでは、農薬会社、肥料会社、資材会社などが技術員を雇い、自社製品の販売を兼ねて技術指導をすることが多く、技術指導を大切なビジネスの一環と位置づけて農家から厚い信頼を受けている会社もあり、州政府はこれらの会社に任せて個別の技術指導から手を引こうとしているわけです。

州政府からくる普及センタ-の予算は事務所の運営費のみしかなく、普及員の給料は自分達が稼がなければなりません。すなわち、普及員が計画し、受益者(農業団体など)に認められたプロジェクトに受益者の予算が付くことによって給料が得られるというわけです。州の農業省にはこのプロジェクトづくりを専門に行っている親玉(総括専技に似ているようです)もいるようです。若い普及員に、プロジェクトがなければ給料が出ないことへの不安を訪ねたところ、「我々の仕事は必要とされているのでプロジェクトがなくなることはない」という返事が返ってきました。しかし、優秀な普及員が大学に流出している実態があり、普及員の確保には収入の安定は欠かせないようです。

3.民営化したニュ-ジ-ランドの普及事業

1987年にはニュ-ジ-ランドも普及にとってオ-ストラリアと同じような試練がやってきました。ただ、オ-ストラリアと違ったのはニュ-ジ-ランドが人口350万人の小国で、より厳しい状況だったことです。

1990年には公営の普及事業を有料化しAgriculture Newzealand(AgNZ)改称、1995年にはWrightsons社に売却し、普及員110名、営業所30ヶ所の株式会社となりました。現在では株式も公開しています。

AgNZには公的資金が全くないように思われていますが、実態はそうではありません。確かに農家に対する技術指導は有料(AgNZ収入の30%)ですが、教育(他の教育機関で行うより効果的と思われるもの)や新人普及員のトレ-ニングなどは公的資金によるものです。また、調査などの公的な仕事のために政府が仕事を依頼することもあります。

一般のコンサルタント会社はAgNZから人材を引き抜くこともあり、実質的にAgNZが新人普及員の養成所の役割を果たしています。そのためAgNZは技術力でハンディを背負うことになり、公的資金はそれを補う役割を果たしているというわけです。

普及員の給料は基本給が約200万円で後は出来高払い、400万円稼げない普及員は基本給も貰えません。稼ぎ頭は800万円ということです。

農家から貰う料金は相談内容ごとに決まったものがあるわけでなく、提供する技術の内容と経費、農家がそれによって得られるであろう利益や支払い能力などを加味して普及員が自分で算定するので、農家の経営全体を見る能力が問われます。

「農家も利益を上げ、会社も利益を上げる」これがAgNZの理念です。