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酪農試験場

根釧農試:研究通信7号 新品種

根釧農試 研究通信  第7号

1997年3月発行)

新牧草・飼料作物優良品種および馬鈴しょ新品種の紹介

1 馬鈴しょ新品種

○ばれいしょ新品種「根育29号」

1.はじめに

近年、食品の安全性や環境問題への関心が高まり、農業においても環境に調和した農業の確立が求められています。このような時代の流れの中で、北海道においてもクリ-ン農業推進のための取り組みが行われています。

ばれいしょ栽培において、減農薬あるいは無農薬栽培を安定的に行うためには、葉を枯らして大幅な収量減をもたらし、いもを腐敗させる疫病を回避することが不可欠です。抵抗性品種の開発は、以前は主働遺伝子を野性種から栽培種に導入するのが中心でしたが、この種の抵抗性は菌の新しいレ-スの出現により抵抗性が崩壊しやすいのが大きな欠点でした。

「根育29号は」疫病抵抗性が強く、その抵抗性は菌のレ-スによる特異性がなく、抵抗性の持続性に優れていると考えられる圃場抵抗性です。減農薬や無農薬を指向する消費者や生産者の要望に応える新品種として普及をすすめていきます。

2.育成経過

「根育29号」は、昭和59年、疫病圃場抵抗性が強く多収性の近緑種系統「S.tuberosum ssp.andigena(W553-4)を母、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性の「R392ー50」を父とし交配し、以後選抜を図ってきたものです。平成9年の北海道農業試験会議においてクリ-ン農業専用の食用品種として北海道の奨励品種に認定されました。

3.特性の概要

本品種はやや開張型の草型で、茎の長さは「農林1号」よりやや長いですが、茎が太く倒状は「農林1号」並かやや少なめです。花は大きく、「男爵薯」より濃い赤紫系で大変美しく、開花期間も長いことから、観光農園などで景観作物として利用できる可能性もあります。ふく枝は長く、いもの形は扁球形、皮色は淡赤色で、目は「男爵薯」並に深いです。肉色は淡黄色で、「紅丸」のような赤い着色はみられません。

休眠期間は「男爵薯」より短く「農林1号」並のやや短です。枯凋期は「男爵薯」よりかなり遅く「農林1号」並の中晩生。地上部の初期生育は「男爵薯」並にやや速いですが、いもの早期肥大性はやや遅い傾向にあります。上いも重(20g以上)は「男爵薯」より多く「農林1号」並ですが、一個重が「男爵薯」より小さいので、中以上いも重(60g以上)では「男爵薯」より多いものの「農林1号」より少ないです。でん粉価は「農林1号」より低く「男爵薯」並です。褐色心腐および中心空洞はほとんど発生しません。疫病圃場抵抗性はきわめて強く、発病しても病班の拡大は非常に遅いことが本品種の最大の特徴です。根釧農試の疫病無防除栽培において「農林1号」の上いも重は、疫病により慣行防除比43~67%と大きく減収するのに対して、本品種では87~96%と減収はわずかで、でん粉価やビタミンCなどの品質もほとんど低下しません。塊茎腐敗抵抗性は「男爵薯」および「農林1号」より強いやや強です。また、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有していますので、発生圃場において根にシストの着性は認められず、本品種の作付けにより土壌中の線虫の卵密度は大幅に低下します。しかし、そうか病および紛状そうか病抵抗性は「男爵薯」並の弱となっています。

調理後の肉質は中で、「男爵薯」より粉質度が低く、調理後黒変は「男爵薯」より多く「農林1号」より少ないです。煮くずれは「男爵薯」より少なく、舌ざわりは滑らかです。チップ・フライの褐変程度は「男爵薯」並の中で、油加工には適しません。食味は「農林1号」並の中で、低温貯蔵後に甘みが増しやすいのが特徴です。用途は調理用です。

4.普及対象地域及び栽培上の注意

普及対象地域:北海道一円。減農薬・無農薬のための専用品種として普及をすすめます。

栽培上の注意:

①塊茎形成および肥大が遅いので、浴光催芽、早植えなど初期生育の確保に努めて下さい。

②疫病の無防除と組み合わせて他の薬剤の使用も控える場合には、土壌病害や軟腐病、菌核病の発生が多い圃場での栽培を避けて下さい。

③収穫後は、赤皮で緑化いもとの識別が難しいので、遮光シ-トで覆うなど曝光を避けて下さい。

④休眠が短いので、低温貯蔵に努めて下さい。