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酪農試験場

研究通信:8号の2

根釧農試 研究通信  第8号

1998年3月発行)

研究成果

2.牧草ミネラル組成改善のためのカリ低減型施肥法

土壌肥料科

1.試験のねらい

牧草のミネラル成分のうち、カリについて乳牛に必要な量と牧草の正常の生育に必要な含有率とを比較すると、前者は0.65~0.80%(飼料乾物中%、「日本飼養標準乳牛」、1994年版より)、後者は1.7~3.5%(乾物中%、作物栄養診断基準値)で、前者の方が低くなっています。つまり、乳牛の飼料として見た場合、生産される牧草のカリ含有率は明らかに高いと言えます。

また、カリは家畜の要求する他のミネラル(マグネシウムおよびカルシウム)と拮抗関係にあることが知られています。すなわち、カリ施肥量の低減は牧草のカリ含有率を低下させ、同時にマグネシウムおよびカルシウムの含有率を上昇させます。

一方、イネ科牧草とマメ科牧草との混播草地の生産性を高く保つためには、カリの十分な供給等によりマメ科牧草を維持することが前提になります。これまでの研究で、根釧地方の火山性土地帯のマメ科混播チモシー草地において最大収量を安定的に得るために必要なカリ供給量(施肥量と土壌表層

05cmの交換性カリ存在量との合計)は、K2Oとして30kg/10aであることが明らかになっています。

この試験では最大乾物収量の安定生産に主眼を置いた現行のカリ施肥法とは別に、牧草体カリ含有率の低下等ミネラル組成の改善を目的に、マメ科牧草の維持のためにはどこまでカリ供給量を低減できるかを検討し、さらに具体的な施肥量の算出方法を提案しました。

2.試験の方法

試験土壌:厚層黒色火山性土、黒色火山性土、未熟火山性土。試験年次:

19931997年(ただし、未熟火山性土では19931994年のみを考察の対象にしています)。供試草地:チモシー「ノサップ」、シロクローバ「カリフォルニアラジノ」混播草地。試験処理:カリ施肥量6水準(0,6,10,14,18,22kgK2O/10a)。共通施肥:N-P2O5-MgO4-10-4kg/10a、施肥配分:早春-1番草収穫後=2-1

3.試験の結果

1)牧草の年間乾物収量はカリ供給量の増加に伴い高まる傾向にあり、カリ施肥量

1422kg/10a(カリ供給量2025kg/10a)で平均的には900kg/10a(これは、施肥標準の目標収量である生草4,500kg/10aにおおむね相当します)の水準にほぼ達しました。しかしながら、年次によっては、カリ供給量のさらなる増加がより一層の増収をもたらす可能性がありました(図1)。

2)1番草のマメ科率(全牧草に占めるマメ科牧草の生草重量割合)はカリ供給量の増加に伴い高まりましたが、いずれの土壌でもカリ供給量20~25kg/10aで頭打ちの傾向を示しました(図2)。さらに、カリ施肥量18kg区の1番草マメ科率は22kg区と同等であったことと、18kg区の土壌表層(0~5cm)から供給される交換性カリ量は年間3~4kg/10aであったことから、マメ科率の低下をもたらさないカリ供給量の下限を22kg/10aと設定しました。

3)牧草のミネラル組成は、カリ供給量の低減により乳牛飼養上望ましい方向に改善されました。すなわち、牧草のミネラル含有率は、カリで低下し、逆にマグネシウムおよびカルシウムでは高まりました(図3)。

カリ供給量を現行の30kg/10aから今回提案した22kg/10aに低減することにより、1番草のカリ含有率は2.3から2.0%に低下し、一方、マグネシウムおよびカルシウム含有率は、それぞれ0.09から0.12%、0.31から0.33%に上昇すると見込まれました。

4)マメ科率維持のためのカリ供給量下限値22kg/10aを満たすカリ施肥量決定法として

カリ施肥量(kgK2O/10a)=22-1/2×仮比重×早春土壌(0~5cm)中交換性カリ含量(mgK2O/100g乾土)

を提案しました。この算出式による試算例を表1に示しました。

表1 土壌診断に基づくカリ低減型施肥量試算例


土壌

仮比重

交換性カリ含量

カリ施肥量

mg/100g乾土

kg/10a

厚層黒色火山性土

0.6

10

19.0

25

14.5

35

11.5

黒色火山性土

0.7

10

18.5

20

15.0

30

11.5

未熟火山性土

0.9

10

17.5

15

15.2

25

10.7

なお、秋に採取した土壌の分析値から施肥量を計算する場合には、以下に示す式による補正が可能です(単位はmgK2O/100g乾土です)。

翌春土壌中交換性カリ含量=(秋採取土壌中交換性カリ含量+8)÷2±5

この成績の適用地域は北海道東部の火山性土地帯の採草地です。また、この施肥法による収量は、標準施肥量を22kg/10a(カリ供給量で30kg/10a)とする現行のカリ施肥法に比べ若干低下することがあります。