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酪農試験場

研究成果:8号の4

根釧農試 研究通信  第8号

1998年3月発行)

研究成果

4.チモシー基幹草地の集約放牧技術と牛乳の栄養成分

酪農第一科、酪農第二科、土壌肥料科

1 試験のねらい

土壌凍結地帯である根釧地域に適した放牧用草種としてチモシーが利用できることが判っていますが、チモシーの永続性や産乳性が明らかにされていませんでした。そこで、チモシー品種の永続性と利用方法を示すとともに、放牧草の栄養価、、放牧草摂取量および産乳量を検討しました。また、昼夜放牧牛における栄養充足状況、繁殖性および生産病との関連性及び放牧牛乳の栄養成分を明らかにしました。

2 試験の方法

1)チモシー基幹草地の永続性と利用法

基幹イネ科牧草としてチモシーの早晩性の異なる品種を用いて草地を造成し、6年間乳牛を放牧しながら放牧草の状態を調査しました。

2)昼夜放牧における乳牛飼養方法

牧区数を12とした放牧専用草地(0.25ha/頭)を用いて放牧開始し、7月下旬以降、兼用地(0.25ha/頭)を追加し24牧区として放牧し、放牧草の状態及び成分組成を調べました。また、3カ年間延べ373頭の泌乳牛を用いて、併給飼料として牧草サイレージ乾物2kg給与と無給与の条件で昼夜放牧し、乳期毎の飼料摂取、乳量・乳成分を検討しました。

3)昼夜放牧における乳牛の繁殖性

乳量の多い乳牛を昼夜放牧した場合、泌乳前期のエネルギー摂取不足等から繁殖障害が生じやすいと言われています。そこで、牧期分娩牛23頭および放牧期に受精を行う早春分娩牛9頭(2月下旬~4月上旬分娩)を昼夜放牧し、栄養充足状況、繁殖性を調査しました。

4)放牧利用形態と牛乳の栄養成分

昼夜放牧3農場、制限放牧7牧場、放牧なし7農場を選定し、生産された牛乳のビタミン、ミネラル、脂肪酸組成等を調査しました。

3 試験の結果

1)チモシー基幹草地の永続性と利用法

チモシー基幹の放牧専用草地及び兼用草地では、「ノサップ」、「キリタップ」、「ホクシュウ」は極早種の「クンプウ」に比べてチモシー割合が70%以上と高く、雑草割合は30%以下と低いことから、この3品種は少なくとも6年間の放牧草として利用できることがわかりました(図1、省略)。

2)昼夜放牧における乳牛飼養方法

放牧専用地、兼用地とも放牧圧0.25頭/haで放牧した結果、良好な状態で放牧草を利用することができました。放牧草の栄養価は、一般的な貯蔵用飼料よりも高いものでした。平均放牧草乾物摂取量は、牧草サイレージ給与区で12.4kg、無給区で14.5kgでした。泌乳前期の乳量・乳脂肪率は牧草サイレージ区で36.4kg/日、3.44%、無給区で37.5kg/日、3.33%でした。泌乳中・後期では牧草サイレージ給与の有無にかかわらず、乳脂肪率は3.7%前後でした。牛乳生産のためのエネルギー自給率は65%と高く、昼夜放牧は生産性の高い乳牛飼養法であることがわかりました。試験の結果から一乳期乳量9,000kgのための飼料給与例を作成しました(表1)。

3)昼夜放牧における乳牛の繁殖性

放牧期分娩牛及び早春分娩牛の放牧草摂取量は乾物12~13kgと高く、蛋白質含量の低い濃厚飼料を9.7kg併給したため、エネルギー摂取量不足、蛋白質の大きな過剰は見られませんでした。放牧期、早春分娩牛の初回発情、初回受精までの日数及び空胎日数は良好でした。また、繁殖障害もそれぞれ、3.3頭、起立不能症は1.0頭と比較的少なく良好でした(表2)。このことから適正な濃厚飼料を給与するとともに、乳牛の繁殖管理を十分に行えば昼夜放牧であっても繁殖の問題は少ないと考えられました。

4)放牧利用形態と牛乳の栄養成分

牛乳中のビタミンE含量は放牧なし、制限放牧、昼夜放牧でそれぞれ0.68、0.87、1.04μg/mlと放牧利用で2倍近く高い値を示しました(図2、省略)。このことから、放牧で生産された牛乳はビタミンEやカロチン含量が高く、食品として優れた特徴を持っていることが明らかになりました。