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酪農試験場

研究成果:8号の6

根釧農試 研究通信  第8号

1998年3月発行)

研究成果

6.草地型酪農地帯における低投入型経営の技術体系と収益性

経営科

1.背景とねらい

草地型酪農地帯においても酪農家の多くが規模拡大・高泌乳化を進める中でやむを得ず犠牲にしてきた生活の「ゆとり」や「環境保全」が見直され、これらを実現できる低投入型経営が注目されるようになってきました。しかし、これまで「高い所得」を目指していない農家という視点が欠けていたため、乳量水準が低く、所得も大きくないので所得(あるいは乳量)を基準とした指標では低投入型経営は必ずしも高い評価を受けてきませんでした。そこで所得額ではなく所得率と労働時間の視点から低投入型経営を取り上げ、農家調査データから経営目標との関連で低投入経営の実態を検討することにしました。

2.研究方法

低投入型経営とは、技術的には高泌乳の追求を最優先の目標としない生活重視の経営で、配合飼料の搾乳牛への給与量は年間1頭当たり最大2t程度としました。これらの条件に合う酪農家5戸を根室・釧路管内から選定して技術面・経営面から実態を調査しました。

3.試験結果

1)調査農家の概要

草地面積規模は最大120haから32haと幅が広く、飼養頭数は総頭数で最大240頭から42頭でした。また、夏期間は昼夜放牧飼養で、乳量水準は4,700~7,500kg/年と比較的低い水準でした。家族労働力は2名が基本で、これ以上の労働力を抱えている農家はありませんでした。すべての農家が夏期間は昼夜放牧で、乳検未加入でした。

2)技術概要(表1)

表1 低投入型経営の技術概要

注1)放牧期/舎飼期は、飼養管理労働時間が対象。

多くの農家で総労働時間は、3,600~4,200時間/年間と管内平均6,681時間の50%から60%で、調査農家では規模による差が明確ではなく、短い労働時間は「ゆとり」を重視する低投入型経営に共通する性格であることが確認されました。技術指標として繁殖データは欠かせませんが、平均産次数、初回種付け日も分娩間隔も乳検の管内平均よりも短い実態にありました。放牧期に乳成分(特に脂肪率)が取引基準を下回る農家もありましたが、昼夜放牧飼養に大きな問題点は見られませんでした(表2)。

表2  繁殖関係

注Ⅰ)平成9年度農家調査による

注2)管内は、平成5年から9年の根室管内乳検平均

注3)平成8年(暦年)、A農家は9年

注4)A農家は牛と接するとき随時繁殖管理

注5)B農家は、季節分娩を重視しているため連続2日間授精している

3)収益性(表3)

低投入農家は放牧のメリットを生かし低コストで生産している農家もおり、とくに、中小規模で高い所得率を実現していました。大規模では省力的なD型ハウスの改造型フリーストールによる群飼養で労働の収益性が高く、中小規模はスタンチョン飼養では個体ごとの飼料給与等が可能なので経産牛1頭当たり収益性が高いといえます。

表3 低投入型経営の収支と特徴(平8) (単位:千円、時間、ha、頭)

4)低投入経営の技術体系と収益性(表4)

典型事例としてBとE農家を取り上げました。大規模農家Bは所得1,160万円、所得率29%、乳飼比19.4、3,600時間、草地80ha、頭数90頭、乳量5,200kg/年で、改造フリーストール牛舎、ミルキングパーラー方式でした。中小規模E経営は所得800万円、所得率55%、乳飼比13.3、労働時間4,100時間、草地32ha、頭数42頭、乳量6,600kg/年、スタンチョン牛舎、パイプラインミルカー、ロールベール収穫体系でした。

表4 低投入経営の技術体系と収益性

F-MPフリーストール、パーラ  S-PMスタンチョン、パイプライン

5)経営目標

経営目標は、一定の生活費を確保できる所得(中小規模では800万円、大規模では1,200万円前後)で短い労働時間(約4,000時間/年)でした。つまり、経営目標を実現している経営組織と言うことが出来ます。また、環境保全についても1~1.5(換算頭/草地面積ha)程度で糞尿の排出量と散布面積のバランスで見る限りすべての農家で問題を発生する飼養密度ではありませんでした。

4.成果の活用と留意点

1)低投入型経営は、若い世代(調査農家は30~40代)であり、高齢農家だけに限られた形態ではありませんでした。

2)所得(あるいは生産量)最大化が前提の場合には生産性指標は適当な指標ですが、事例に見られるように典型的な低投入型経営には適応できない指標もあることに留意する必要があります。また、乳検は低投入型経営では必ずしも高い評価を受けていませんでした。

3)低投入型経営では、投資水準も最低限に低く抑えられていることに留意が必要で、中小規模では、償還可能額も小さいので慎重な投資計画が必要です。

4)最適規模は、入植など経営開始時点の酪農情勢の影響が大きいように思われました。