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酪農試験場

時の話題:8号の1

根釧農試 研究通信  第8号

1998年3月発行)

**時の話題**

2.ふん尿は未来のエネルギー(海外視察)

酪農施設科

1.調査の目的

今回、工業試験場の浅野科長とともにヨーロッパのふん尿処理を視察する機会がありました。訪問地はイギリス、フランス、ノルウェー、スウェーデン、ドイツの5カ国でふん尿処理、特に曝気技術についての実情、研究について調査を行う予定でした。ところが、各研究機関で曝気を行っている農家や開発メーカーはあるが、嫌気発酵にシフトしているということでした。なぜ、好気発酵よりも嫌気発酵かというと、好気発酵はアンモニアの揮散が多いことと、曝気に要する電気のコストが高いことが指摘されました。ヨーロッパではアンモニアの揮散防止は酸性雨防止のための最重要課題の一つで、必ず揮散防止対策が求められているということでした。

2.ウプサラ市のバイオガスプラント

スウェーデン、ウプサラ市では屠殺場、レストラン、製薬会社、一般家庭、家畜から発生する有機性廃棄物を年間3万トン処理するバイオガスプラントを建設しています。これらの廃棄物を破砕した後、病原性細菌の拡散を防止するため、70℃で1時間加熱殺菌処理してから3,000㎡のリアクターで高温発酵させます。発酵液は農地に還元し、発生ガスはバス17台、乗用車8台、ゴミ収集台の燃料にしています。発生ガスはCO2、水、硫化水素が除かれ、メタン濃度は97%になるそうです。

ウプサラ市内にはメタンガス専用のスタンドもありました。メタンガスは環境に配慮されているということで税金が掛かっておらず、ガソリンの半額程度ということでした。

3.ドイツのバイオガスプラント

約100頭規模の乳牛ふん尿を200立米の発酵槽で55℃での高温発酵を行っており、1日5トン処理できるシステムです。ガスの貯留槽が高分子材料でできており、リアクターの上に、上屋をかけているだで非常に簡単で、低コストな構造でした。バイオガスプラントは35kWhの発電機で発電し、自家使用の他、余るときは売電していました。電気代は、1kWhにつき0.25DMで、売電価格は0.15DMとのことでした。

4.日本への導入は?

今回の調査は最新の曝揮処理技術を吸収するために行われ、革新的な発酵装置もありましたが、最先端のものとなると嫌気発酵プラントでした。スウェーデンのウプサラ市の例にあるように、嫌気発酵プラントでは家畜ふん尿の他に、家庭やレストランなどの残飯、食品工場などの有機廃棄物を加えてエネルギー不足を補っています。日本の大学などでは家畜ふん尿だけで嫌気発酵をさせる研究がかなり前から行われていますが、発酵槽の温度を維持させるだけのエネルギーが得られず、成果を上げていません。ドイツでは農家単位でも小さな嫌気発酵槽を所有し、売電出来るほどの余剰エネルギーを得ています。農家でも組み立てられる簡単な発酵槽や発電ユニットがあるので、かなり建設コストも低くなります。加えて、ウプサラ市のようにメタンガスを自動車燃料に利用すれば、地球温暖化対策にもなり得ます。しかし、メタンガスは危険物であり、日本に導入する段階で安全対策や規制緩和が問題になるでしょう。

地球温暖化対策会議で炭酸ガスの排出規制が議題になっており、日本にもかなり厳しい数値を目標とせざるを得ない状況になっています。近い将来、アンモニアなどの畜産から排出される温暖化物質も問題になってくるでしょう。ウプサラ市のような大規模なシステムは導入可能な地域は限定されますが、ドイツのシステムは農家単位や集落単位での導入が可能であると考えられます。日本でも環境問題、地球温暖化、省エネルギーなどは恒久的な問題であり、それらに対応するためには、嫌気発酵システムを導入するようになると思います。