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酪農試験場

根釧農試研究成果:9号の1

根釧農試 研究通信  第9号

1999年3月発行)

研究成果

1.フリーストール経営の投資水準と収益性

経営科

1.試験のねらい

経営規模の拡大とともにフリーストール牛舎の導入が進んできています。北海道全体でも乳牛飼養農家の10%程度まで増加してきています。しかし、フリーストール牛舎への投資額が大きく、導入後の経営成果に対する不安や労働的にどのような状況にあるのかが注目されています。そのため、この研究では牛床数100規模のフリーストール牛舎で経産牛頭数115頭、家族労働力3人(基幹労働力2人、補助1人)を基本としたフリーストール飼養管理体系を想定し、規模拡大した酪農経営の収益性を検討したものです。

2.試験の方法

フリーストール飼養管理体系モデル構築し、それを用いたシミュレーション分析を行いました。

基本的な設定条件は、①目標経産牛頭数規模

115頭、乳量水準8,000kg/頭、牛舎規模は牛床数100、パーラ規模はユニット数16、規模拡大に必要な増頭は自家繁殖のみ、②家族労働力3人および2人、1日の労働時間は1人当たり10時間を限度、③初産分娩月齢242628ヶ月、分娩間隔13ヶ月、除籍率2530%、④経産牛は通年舎飼として育成牛のみ公共牧場を利用、⑤牧草生産量3,600kg10a、草地面積は乳牛の増加に応じて確保する(購入と借地を半々)、⑥投資水準は標準投資タイプ(公社営事業などでの施設導入)、低水準投資タイプ(機械取得額半額、牛舎施設等は農家が建設・耐用年数短縮)、中間投資タイプ(機械などの取得額を半額)の3つを設定、などとしました。

3.試験の結果

1)家族労働力3人、初産分娩月齢

26ヶ月、除籍率25%の場合、目標経産牛頭数に達するのはフリーストール牛舎導入から7年目で、そのときの農業所得は低水準投資タイプ2,002万円、中間投資タイプ1,940万円、標準投資タイプ1,604万円の順になります(表2、図:省略)。また、年間所要労働時間は男性1(基幹従事者)が2,795時間、男性2(補助従事者)は1,006時間、女性(基幹従事者)が1,678時間となりました(表1:省略)。基幹従事者の労働時間の違いは作業配分の割合が異なるためです。

初産分娩月齢が

26ヶ月から28ヶ月になると標準投資タイプでの農業所得は1,230万円へと低下します。この場合には目標頭数に到達する期間も長くなります。同様に初産分娩月齢26ヶ月でも除籍率が30%になると目標頭数到達に11年を要し、その場合の農業所得は1,310万円ですが、このケースでは経営の成立が難しいといえます。3つの投資タイプで所得が低かった標準投資タイプでは繁殖成績が悪い場合の収益性には問題があります。

2)家族労働力を2人にした場合の労働時間は男性2,893時間、女性2,212時間になり、牧草収穫労働を中心に

457時間の不足が生じました。その対応として雇用労働力の利用、一部コントラクタの利用、全面的なコントラクタを利用した場合の農業所得の比較をしました。結果として労働力不足の時期だけスポット的な臨時雇用を行う時の所得(1,545万円)が高のですが、長期間にわたり労働力が不足し人員確保や作業能率に不安が残りますので、現実的には季節雇用や通年雇用者の確保の方が(標準投資タイプで1,483万円)妥当性があると考えられます。

3)資本回収法で設備投資の妥当性を検討したが、どのタイプもフリーストール牛舎導入直後は資本回収必要額に対して資本回収見込額が下回る。上回るようになるには標準投資タイプが6年目(表3:省略)、中間投資タイプと低水準投資タイプが4年目である。標準タイプでは繁殖成績低い場合では資本回収が進まなくなり設備投資の妥当性が失われるため、フリーストール飼養体系の酪農家平均程度の繁殖成績を維持するなどの対応が必要である。また、低水準投資タイプでは農業所得が高いが、機械・施設の耐用年数を短く設定したので繁殖成績が悪い場合には、資本回収がそれほど進まない結果となり、フリーストール牛舎等への投資額を低く抑えた場合でも耐用年数を引延ばすことが必要になる。

4.成果の活用面と留意点

経産牛頭数規模

115頭の経営試算であること、草地酪農地帯での飼養体系を念頭においたものです。