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酪農試験場

根釧農試研究通信 9号の10

根釧農試 研究通信  第9号

1999年3月発行)

研究成果

10.草地に対する適正な糞尿還元量の設定

土壌肥料科、酪農第二科

1.目的

酪農地帯の環境保全と,良質飼料の確保を両立する家畜糞尿の適正還元量の設定と家畜糞尿を有効に活用した低コスト飼料生産技術の確立を目的に試験を実施しました.

2.方法

1)根室管内の酪農経営を対象に,乳牛の糞尿処理・利用状況の把握を目的としたアンケート調査および堆肥の管理に関する実態調査を行いました.

2)チモシー主体草地を供試し家畜糞尿(堆肥,スラリー)を多量施用(堆肥:0~18t/10a,スラリー:全窒素換算で0~40kgN/10a相当量)した場合に生じる問題を,牧草生育と乳牛への影響から検討しました.

3)チモシー主体草地に対する堆肥施用効果の経年変化を明らかにし,堆肥主体で草地の肥培管理を実施するための必要施用量および施肥配分などを検討しました.

3.結果の概要

(1)糞尿処理施設の容量は,乳牛飼養頭数の増加に十分対応したものではなく,堆積中の堆肥からは肥料成分の流亡が認められました.また,草地への糞尿施用に応じた減肥の意識は低いことが明らかになりました.

(2)維持管理時の草地に12t/10a以上の堆肥を施用することにより,牧草茎数の減少および草種構成の悪化と牧草体カリウム含量の上昇を招き,吸収されなかった硝酸態窒素は収穫跡地の土壌に残存しました(表1,図1:省略).

(3)スラリー施用量の増加に伴い,牧草収量の増加は頭打ちとなり,牧草体カリウム含量の上昇によりミネラル組成は悪化しました.全窒素換算で40kgN/10a相当量のスラリーを施用して栽培した牧草(N40)をサイレージ調製して乳牛に給与すると,N10に比べて乳量および血中マグネシウム濃度が低下しました(表2:省略).

(4)堆肥に含まれるリン酸,カリウムは草地に施用された後,速効的な肥効を示しましたが,窒素は有 機物の分解に伴って緩効的な肥効を示しました.

(5)草地に表面施用した堆肥から供給される窒素のうち,牧草に吸収・利用される割合は1/3程度にすぎず,1/3は草地表面に蓄積し,残り1/3の行方は不明でした.

(6)チモシー単播草地において,北海道施肥標準で設定した目標収量は,4t/10aの堆肥を連用したうえで8kg/10a,または8t/10aの堆肥を連用したうえで4kg/10a程度の窒素を補うことでほぼ達成できました.その場合,不足分のリン酸,カリウムは化学肥料などによって補うことが必要でした.

(7)チモシーを基幹とする混播草地に,堆肥を4~6t/10a連用する場合,不足する養分を適正に補給すればマメ科牧草の維持と目標収量の確保が可能でした.このとき,牧草ミネラル組成の悪化を防ぐためには,堆肥から供給されるカリウム量が施肥標準量を超えないことが重要であり,施肥標準量に対する不足分を早春と1番後に2:1に分けて施用するか,カリウム低減型施肥法(平成10年度

指導参考事項)で算出した量に対する不足分を1番後に全量施用することが適当であると思われました.

(8)草地に対する適正な糞尿還元量を①牧草地としての生産性を維持し,②牧草ミネラル組成が施肥標準に準じて栽培した場合より悪化せず,③土壌中の硝酸態窒素残存量を最小限にとどめる範囲と位置づけ,施用する家畜糞尿から供給される養分量(窒素,リン酸,カリウム)のいずれかが施肥標準量に達する量としました.

(9)以上の概念に従って,適正な糞尿還元量を導く手順を図2に,糞尿処理物から供給される養分量は一般的なものを想定した数値を用い(有機物施用に伴う施肥対応),根釧地方の採草地を対象として試算した結果を表3(省略)に示します.