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酪農試験場

研究成果:9号の13

根釧農試 研究通信  第9号

1999年3月発行)

研究成果

13.乳牛糞尿の曝気処理技術の確立

酪農施設科

1.試験のねらい

近年、経営規模の拡大等による飼養頭数の増加に伴い、家畜糞尿による悪臭などの環境汚染が問題となっています。スラリーは生状態での散布が多く、糞尿の取り扱い性、散布時の臭気および散布後の牧草収量等に多くの問題が指摘されています。そこで、適正な曝気処理で糞尿の臭気低減と取り扱い性の改善を図るとともに、実規模施設による運転方法を明らかにしました。さらに、乳牛スラリーに対する曝気処理の影響を、牧草地に対する施肥効果から評価しました。

2.試験の方法

1)貯留容量約30m3の曝気槽(図1:省略)を用いて、固液分離液を投入して、バッチ処理方式による曝気処理効果を検討し、臭気低減のための曝気処理終了のための目安を明らかにしました。

2)連続投入時の曝気立ち上げ方法として、希釈法とバッチ処理法について検討しました。

3)曝気処理糞尿をの圃場に散布して、牧草収量と窒素吸収量を検討しました。

3.試験の結果

1)曝気槽を空にして固液分離液14.63m3(水分96.10%)を投入し、送気量168m3/日でバッチ処理方式で曝気をしました。曝気開始から4日目から急激な発泡がみられ、これは7日目まで継続しましたが、食用油の投入により、消泡が可能でした。処理液の温度は15℃から徐々に上昇し、6日目で20.1℃となり12日目は17.3℃程度となりました。pHは2日目で8.81、10日目で9.01となり、ORPは11日目には+99mVとなりました。また、一般的なバッチ処理運転方法を想定し、汚泥5.73m3を残して、新たに固液分離液13.35m3(水分95.11%)を投入し、送気量126m3/日で曝気をしました。この場合には急激な発泡はなく、曝気液を上部から散水するだけで十分消泡が可能でした。処理液の温度は、17.8℃から上昇し6日目で25.1℃となり、12日目で22.1℃となりました。pHは開始時に8.02で、10日目に8.89となり、ORPは-187mVから一旦低下しましたが、数日間-350mV程度を維持した後、上昇し11日目で+12mVとなりました(表1、2、3:省略)。

これらのことから曝気終了時の条件を、「臭気の低減が図られ、曝気も安定した状態を維持できる」とすると、①空の曝気槽に原料を入れて曝気をした場合:積算風量(m3)が原物(t)の約100(乾物(kg)で2.0)倍になった時、②残汚泥がある曝気をした場合:積算風量(m3)が原物(t)の約80(乾物(kg)で1.5)倍になった時を曝気処理終了の目安としました。しかし、この時にはアンモニア態窒素は20%程度低下します(表3:省略)。

2)連続投入方式での曝気をする場合、希釈法による立ち上げでは、急激な発泡に対して投入を休止して対応しましたが、安定した状態を維持するのは困難でした。これに対し、あらかじめバッチ処理で立ち上げを終了させてから連続投入試験に移った場合には、1日の投入量(2.25t)に対する積算風量を96~101倍(216~228m3/日)に設定して運転することで、急激な発泡状態を越えた安定した状態を維持できました。このことから、連続投入時の立ち上げでも、バッチ処理の方が効果がありました。

3)曝気処理液を肥料として圃場に還元する場合には、曝気処理によってスラリー中のアンモニアが揮散し肥料成分が減少しているため、牧草の収量低下が認められました。また、スラリーに曝気処理をしても、施用窒素の吸収利用率等に影響はありませんでした(表4:省略)。このように曝気処理をしたスラリーを草地に施用する場合は、養分含量を把握して適正な施肥対応を実施する必要があります。

臭気低減を目的として曝気処理をする場合には、固液分離液を用いる必要があります。また、曝気処理施設はアンモニア揮散や臭気の拡散防止のため、ビニールハウス等で覆う必要があります。急激な発泡で消泡が困難な場合には、処理液量の0.05%容量の食用油等を投入すると、消泡が容易になります。さらに、臭気が低下した曝気処理液でも、嫌気状態で貯留されると臭気強度が上昇するので、少量の曝気を継続する必要があります。