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酪農試験場

根釧農試研究通信:9号の17

根釧農試 研究通信  第9号

1999年3月発行)

研究成果

17.酪農地帯における糞尿処理・利用技術導入促進の条件

経営科

1.背景とねらい

酪農地帯では規模拡大の進行とともに家畜糞尿の利用や処理の方法が問題視されるようになってきました。頭数規模の増加に伴って家畜糞尿も増加していくことから、家畜糞尿をどのよう処理・利用していくかが今後の酪農の展開にとって課題になっています。

そこで、本試験では糞尿処理・利用技術導入を地域全体ですすめ、糞尿による環境負荷の軽減と地域酪農の展開を実現するための条件を検討しました。

2.研究方法

①糞尿問題深刻化の要因と対策状況整理

②技術導入に対する酪農経営行動の特質把握

③技術非導入の要因解析と投資意思額の計測

④技術の類型化と技術選択行動の特質把握、方式別の費用・労働負担の計測、費用負担の妥当性検証

3.試験結果

1)糞尿問題深刻化は、生乳や個体価格低落を背景に、酪農経営が飼養管理部門に労働や資金を集中し多頭化・高泌乳化を進める中で構造的に生じています。糞尿対策は、同時に構造的問題を緩和し酪農経営の展開を押し進めるものでなくてはなりません。

2)今日、糞尿対策として補助率の高い公共事業等が実施されてきました。しかし、新たな技術導入経営は一部にとどまり、今後も地域全体をカバーすることは想定できません。

3)酪農経営の多くは「対策の必要性の意識はあるが行動には結びつかない」<モラトリアム>状態にあります。環境問題の解決と地域酪農の維持発展には、<モラトリアム>経営への技術導入、および技術導入経営の経営成長が課題となります。

4)<モラトリアム>の要因は、①環境問題の重要性の弱い認識、②適切な解決手段欠如、③他経営課題より低い優先順位にあります。要因は酪農経営のファミリィサイクルに規定されて生じており、啓蒙によって酪農家を環境問題に取り組むよう誘導するには限界があります。現実に、<モラトリアム>経営の糞尿処理への投資意思額は想定事業費の10%程度にとどまっています。

5)スラリー方式は、労働・費用負担が堆肥舎方式や固液分離方式より軽く導入が見込まれます(図1:省略)。しかし、スラリー方式でも酪農経営の費用負担は増大し、導入想定頭数規模の経営のうち費用負担可能経営は5割にとどまります(表1、表2、図2:省略)。施設機械の更新や追加投資時における補助金の有無は経営に大きな影響を与えかねない状況にあります。

6)糞尿処理技術導入促進には、①家畜糞尿に問題に対する酪農経営の意識向上のために経営単位での環境負荷量計測・推定手法の開発すること、②環境保全に対し権限を持った地域組織体制構築と最小限の技術導入の任意性排除、③スラリー方式の低コスト化及び未熟糞尿散布に伴う作業上の制約や環境問題の技術的解決、④技術導入した経営へのその後の経営展開の可能性・方向の提示と酪農経営の費用負担能力向上、⑤補助事業の持続性検討等の総合的取り組み、などが重要となります。また、酪農経営は技術導入にあたり特に持続した費用負担の可否を考慮することが必要となります。

4.成果の活用面と留意点

本研究は、糞尿流通の困難な酪農専業地帯を対象に、今後の取り組みの方向を示すものである。