研究成果:9号の2
根釧農試 研究通信 第9号
(1999年3月発行)研究成果
2.フリーストール牛舎作業の労働強度解明と搾乳作業の省力化
酪農施設科
1.試験のねらい
フリーストール方式における各管理作業の作業姿勢の実態と労働強度の計測及び、搾乳作業姿勢と筋負担を検討して、作業者の体格に適した搾乳パーラ設計方法を提示しました。さらに、ミルキングパーラ形式別の搾乳作業能率を明らかにするとともに、搾乳作業手順と作業能率の関係について検討して省力的な搾乳作業法を検討しました。
2.試験の方法
1)飼養管理作業の作業実態:飼養管理作業内容、作業姿勢、作業時間を記録、解析しました。
2)管理作業の労働負担:牛舎内の作業内容、その時の作業姿勢と心拍を記録、解析しました。
3)搾乳姿勢と労働強度:模擬搾乳装置とパーラ用搾乳ストールによる模擬搾乳時の、作業者の筋電図、作業姿勢(角度センサ)を計測し、解析しました。
4)パーラ形式と搾乳作業能率:タンデム、パラレル、ヘリンボーンの各パーラ形式について搾乳能率を計測しました。
5)前処理作業手順と搾乳能率:前処理作業手順を変えた場合の搾乳能率を計測しました。
3.試験の結果
1)飼養管理作業の作業実態
フリーストール飼養農家では機械化が進んでおり、除糞や給餌作業で使う機械の運転は主として男性が担当していました。そのため、夫は立位や乗座位が多く、妻は搾乳作業を主として担当するため、立位作業が約9割を占めていました(図1:省略)。
2)管理作業の労働負担
サイレージの切り出しや給餌、除糞などの作業は機械で行うので作業姿勢は乗座位が多く、心拍増加率は50%以下が多くみられました。牛舎内の横断通路の除糞や、飼槽の掃き寄せ作業を人力で行った場合、心拍増加率は70%以上でした(表1)。
表1 強度の大きい作業の平均心拍増加率
作業の種類 |
姿勢 |
平均心拍 増加率(%) |
測定数 |
|
給飼 |
サイロシートはがし |
立位 |
82.0 |
2 |
ロール解体・給飼 |
立位 |
81.8 |
2 |
|
搾乳 |
パーラ |
立位 |
48.5 |
7 |
パイプライン |
蹲踞 |
60.2 |
2 |
|
人力の 管理作業 |
除糞 |
立位 |
71.0 |
7 |
サイレージ掃き寄せ |
立位 |
70.1 |
4 |
3)搾乳姿勢と労働強度
パラレルパーラではピットが深くなると左僧帽筋の筋負担が大きくなりました。ヘリンボーンパーラでは右僧帽筋と左僧帽筋でピット深さと筋負担に相関が認められました。搾乳作業の筋負担を軽減するための適正ピット深さは、左僧帽筋の筋活動度の最適範囲を8~10%とすると、パラレルパーラでは身長の53%で上限は56%、ヘリンボーンパーラでは身長の54%で上限は58%と設定できました(図2、3:省略)。
4)パーラ形式と搾乳作業能率
1搾乳ストールあたり1時間の搾乳能率はタンデムパーラでは6.3頭~6.4頭、パラレルパーラでは3.4頭~3.8頭、ヘリンボーンパーラでは3.2頭~4.4頭でした。このことから、施設規模決定時の搾乳ストールあたりの搾乳能率の目安は、タンデムパーラで6.3頭/h、パラレルパーラとヘリンボーンパーラでは3.5頭/hとなります(表2)。
5)前処理作業手順と搾乳能率
搾乳前処理時間は作業手順により大きく異なりました。前処理時間が5分以上と極端に長い農家では、作業手順を片側8頭(全頭)対象から4頭ごとに区切るだけで、前処理時間は139秒短縮され平均泌乳時間は52秒増加し、1時間あたりの搾乳能率は10頭増加させることができました(表3)。
パーラ形式 |
タンデム |
パラレル |
ヘリンボーン(急速退出式) |
|||||||
搾乳ストール、列数 |
4D |
4D |
6D |
8D |
8D |
9D |
8D |
8D |
8D |
12D |
搾乳作業者数 |
2 |
3 |
2 |
1 |
1 |
2 |
2 |
3 |
3 |
1 |
搾乳頭数 |
78 |
94 |
68 |
87 |
77 |
124 |
84 |
142 |
171 |
244 |
総作業時間(h) |
1.52 |
1.88 |
1.56 |
1.80 |
1.39 |
2.04 |
1.51 |
2.02 |
2.66 |
3.17 |
1回の搾乳時間(分・秒) |
7'46" |
8'27" |
12'42" |
17'11" |
15'15" |
16'33" |
13'27" |
13'7" |
14'50" |
17'16" |
搾乳能率(頭/h) |
51.3 |
50.0 |
43.5 |
48.3 |
55.4 |
60.8 |
55.6 |
70.3 |
64.3 |
77.0 |
搾乳頭数(頭/ストール・h) |
6.4 |
6.3 |
3.6 |
3.0 |
3.5 |
3.4 |
3.5 |
4.4 |
4.0 |
3.2 |
表3 作業手順変更に伴う搾乳時間の変化
項目 |
搾乳頭数 (頭) |
搾乳能率 (頭/h) |
1回の搾乳時間 (秒) |
泌乳時間 (秒) |
前-装着 (秒) |
搾乳時間 (h) |
変更前 |
86 |
50.9 |
1031 |
283 |
349 |
1.69 |
変更後 |
95 |
60.9 |
959 |
335 |
209 |
1.56 |
増減 |
+9 |
+10.0 |
-72 |
52 |
-139 |
0.13 |