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酪農試験場

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根釧農試 研究通信  第9号1999年3月発行)

研究成果

8.酪農経営における窒素フロー -根釧農試における事例-

土壌肥料科

1.目的

酪農経営における環境負荷の発生地点および量の解明は未だ不十分です。そこで,北海道立根釧農業試験場畜産圃場(以下,畜産圃場)を,適正な糞尿処理を実施している酪農経営の事例とみなし,環境負荷を中心に,草地および施設群(牛舎および堆肥盤等)を含めた全体の窒素フローの把握を行いました。

2.方法

平成79年度の「業務成績書」(北海道立根釧農業試験場 研究部 管理科),既往の成績,文献および実測値から,現状および新技術導入時の窒素フローを算出しました。

3.結果の概要

(1)畜産圃場における1年間の窒素の収支は,InputOutputおよびPoolでそれぞれ22,0009,900Input45%)および6,600kgN(同30%)でした。また, InputからOutput+Poolをクじた値である不明分は5,300kgN(同24%)でした。 Outputの一部である環境負荷量の合計は,年間6,500kgN(同30%)であり,その中ではアンモニア揮散量の寄与がもっとも大きく,地下浸透と表面流去がそれに次ぎました(図1:省略)。

(2)草地に由来する環境負荷は,その土地利用形態によって傾向が大きく異なりました。すなわち,採草地では,ガスとしての負荷であるアンモニアおよび亜酸化窒素が,放牧地に比べ大きい値を示していました。一方,放牧地では,水の流出に伴う負荷である表面流去および地下浸透が,採草地に比べ高い値を示しました。単位面積当たりの窒素量で比較すると,採草地におけるガス発生量と水の流出に伴う負荷量は,それぞれ放牧地の6.1および0.4倍でした(図23:省略)。

(3)牛舎や堆肥盤等の施設群から発生する負荷量は,表面流去+地下浸透では採草地や放牧地における負荷量と同等の値を示していました。また,ガスでは全草地の1.5倍に達しており,環境負荷に対する施設群の重要性が明らかになりました(図4:省略)。

(4)肥培管理法あるいは施設の整備により,根釧農試畜産圃場の現在の環境負荷をより一層低減することが可能でした。今回試算に用いた改良型スラリー散布法(土壌注入+硝化抑制材添加)と堆肥盤におけるれき汁の貯留およびばっ気槽の密閉化によって,アンモニア揮散では現状の年間3,000kgNから1,200kgN(現状の44%)へ,地下浸透では1,300kgNから620kgN(同52%)に削減できました。さらに,牧草に吸収されずに揮散するアンモニア量が減少することにより,化学肥料の購入量も現在の7割弱に相当する4,800kgNまで節減が可能でした(図5:省略)。

(5)素掘りラグーンによる糞尿スラリーの貯留や冬期間のスラリーおよび堆肥の散布は窒素環境負荷の大きな発生源となり,地下水や河川水の水質に大きな影響を与えることが明らかでした。

(6)草地から発生するha当たりの環境負荷窒素量は,年間2532kgNでした。これは,タマネギ畑(50kgN)に比べると明らかに低く,水田(24kgN)と同等からやや高い値でした。しかしながら,草地に牛舎等の施設を加えた畜産圃場全体では環境負荷窒素量は53kgN/ha/yrであり,タマネギ畑とほぼ同等の値を示しました。すなわち,草地に施設群を含めると,酪農経営の環境負荷は必ずしも小さくないと言えます。このことは,環境保全上,牛舎等施設の管理の重要性を示唆するものです。

なお,この成果は,北海道立根釧農業試験場畜産圃場を一つの酪農経営単位とみなした場合の窒素フローであり,個々の酪農経営に直接当てはまるものではありません。

また,実測値の蓄積とそれに基づく環境負荷シミュレーションモデルの開発が今後必要と思われます。