農業研究本部へ

酪農試験場

根釧農試研究通信 9号の9

根釧農試 研究通信  第9号

1999年3月発行)

研究成果

9.堆肥・スラリー・尿の養分含量推定法と肥効率の設定

土壌肥料科

1.目的

家畜糞尿の利用を促進し,肥料の代替物として積極的に活用するためには,施用する糞尿処理物に含まれる肥料成分濃度を把握し,作物生産に有効な養分量を示すことが必要です.そこで,簡易な分析機器を用いて糞尿処理物中の養分含量を推定する手法および草地へ施用した糞尿に含まれる養分のうち,牧草に利用される割合すなわち「肥効率」を糞尿処理物の形態別に検討しました.

2.方法

1) 堆肥、スラリー、尿の養分含量推定法

酪農家で生じる堆肥,スラリー,尿の現物試料を供試材料とし,電気伝導度(EC),乾物率(DM)などの簡易な分析項目から養分含量を推定する方法を検討しました.また,アンモニア態窒素(NH4-N)含量については簡易型反射式光度計を用いて測定する方法についても検討しました(表1:省略).

2) 堆肥、スラリー、尿の肥効率の設定

火山性土(根釧地域),台地土・泥炭土(天北地域)に造成したチモシー単播草地を供試し,糞尿処理物の施用量,施用時期(春施用,秋施用,秋・春等量分施)および品質と窒素肥効率の関係を検討しました.

3.結果の概要

(1) 堆肥,スラリー,尿などに含まれる養分量は, 貯留施設の形態や貯留期間などによって大きな変動幅が認められ,開口部が広く,降水や積雪の影響を受けやすいラグーンに貯留したスラリーでは,地下ピットやスラリーストアに貯留されたものよりも養分含量に変化が生じやすいことが示唆されました.

(2) ECの測定により,糞尿処理物の全窒素(T-N),カリウム(K2O),NH4-N含量が推定でき,これにDMを加えることによってリン酸含量の推定も可能でした(表2,図1:省略).

(3) 簡易型反射式光度計の利用により,ECとDMを変数とした推定式よりも高い精度で,堆肥,スラリーのNH4-N含量を推定できました(図2:省略).

(4)春施用した堆肥の窒素肥効率(NR %, 年間)は概ね17%前後でしたが,秋施用では春施用と比べ5割程度低下し,1番草における肥効率に大きな差が認められました.スラリーのNRは施用時期により10~33%と大きく変動し,火山性土および台地土では春施用≧秋・春分施>春施用,泥炭土では秋・春分施>春施用>秋施用の順に高い値を示しました.尿では土壌の違いにかかわらず春施用>秋施用の関係が認められました.このように,糞尿処理物のNRは施用時期によって大きく変動しました(図3:省略).

(5)糞尿処理物の化学成分とNRの関係を検討したところ,堆肥では水分含量(MC, %)の上昇に伴ってNRが高まり,

NR = 0.0187MC2-2.179MC +72.945 (R2=0.39) の関係が認められました.一方,スラリーのNRは,乾物中のアンモニア態窒素含量

(NH4-N/

DM)との間に,NR =-1.128(NH4-N/DM)2 +10.62(NH4-N/DM)+5.3306(R2=0.54) の関係が認められました(図4:省略).

(6)本試験で得られた肥効率(R, %)と既往の報告から,草地への春施用を前提とした乳牛糞尿処理物の基準肥効率(Rs, %)を設定しました(表3:省略).Rは施用量(A),施用時期(T),品質(Q)などの要因によって変動するため,今後それらを数値化することにより,さらに高精度な値が求められると思われます(式1).

R = Rs×A×T×Q×・・・  ・・・(式1)

これに,定量分析または簡易な推定法によって 求めた糞尿処理物の養分含量C(kg/t, FM)を乗ずることで,糞尿処理物から供給される養分量Y(kg/t)を評価することができます(式2).

Y = C×R          ・・・(式2)