農業研究本部へ

酪農試験場

根釧農業試験場 研究通信10号 研究成果1

根釧農試 研究通信  第10号(2000年3月発行)

研究成果

1. 寒冷地における家畜糞・尿・雨水等の簡易分離技術

酪農施設科

1.試験のねらい

開放型の簡易スラリー貯留施設(ラグーン等)では、臭気の拡散やアンモニア揮散、および雨や雪の混入によってスラリー処理量が増加したり、スラリーが希釈されスカムが発生し散布前の攪拌作業時間が増加するなどの問題が発生しています。こうした問題の発生を防止するため、貯留スラリーと雨水とを分離するための簡易なラグーンの被覆方法を検討し、その効果を明らかにしました。

 

2.試験の方法

根釧農試内のスラリー貯留用ラグーン(25m×25m×2m)を用いて、貯留スラリーの上に雨水分離シートとして防水シート(クロステント、28.8m×28.8m)を設置し(図1:省略)、1998年6月~1999年11月の間、降雨や降雪の分離状況、降水の貯留状況、スラリー投入に伴うシートの状況、シートの破損状況、および設置費用を調査しました。

また、雨水分離シート上の滞留水成分についても分析しました。

 

3.試験の結果

1)雨水分離シートの設置 ラグーンを空にした状態で、まず、スラリー投入・搬出用のホースの先端をラグーンの底に設置したコンクリートブロックに固定しました。つぎに、ラグーン全体を覆う形で雨水分離シート(28.8m×28.8m) を広げて設置しました。シート周囲はコンクリートブロックを置いて固定し、シート設置後、速やかに雨水分離シートの上にスラリースプレッダで水道水を約6t散布して、シートが風であおられないようにしました(写真1:省略)。

2)雨水等の分離状況と雨水分離シートの状況 スラリーまたは堆肥盤れき汁等を、雨水分離シート下部に設置したホースより、スラリースプレッダを用いて不定期に投入しました。また、滞留水はその量によって随時排水しました。

1998年6~12月の積算降水量は1146.5mm、1999年1~11月の積算降水量は1012.0mmでした。雨水分離シートを設置したラグーンでのスラリーの投入、搬出に問題はありませんでした。1年半の試験期間の間、降雨と降雪(降水量計約2160mm)による滞留水をスラリーと完全に分離でき、これを排水することでスラリーが溢れることはありませんでした。

日射等による劣化により、雨水分離シート周辺部の一部に破損がみられましたが、スラリーと接する部分の破損はありませんでした(写真2:省略)。

スラリーの嫌気発酵等により雨水分離シート下部にガスが溜まりますが、滞留水を汲み出して水量を減少させると、強風時にガスによる膨張部分が風によってラグーンの端に押され、ガスが抜け膨張が解除されます。このように、上部の滞水量を調整することで、ガスの滞留によるシートの膨張を緩和することができます。

寒冷地では厳冬期に滞留水が凍結するので、スラリーの投入時にはこの凍結部分を押し上げるような投入方法を取る必要があります。そのためには、今回の試験と同様にスラリースプレッダ、あるいはポンプによる圧送が必要と考えられます。

3)滞留水の成分 雨水分離シート上に鳥類の糞が付着していることや雨水分離シートの防水特性もあり、滞留水のカリウム濃度が降水の平均的濃度よりも高く推移しました(表1:省略)。雨水分離シートのスラリーと接する部分に破損がなく滞留水の透明度も高い場合にはそのまま排水しても問題がないと考えられますが、適宜、簡易水質検査キット等を用いて水質検査を実施する必要があります。また、スラリーと接する部分に破損が生じた時は、滞留水はスラリーと混合して圃場に散布し、速やかに雨水分離シートを交換してください。また、廃棄物処理施設のプラスチック系防水シート等を用いると耐久性も高く、スラリーの影響を低く抑えることができます。

4)雨水分離シート設置資材費用 大きさ25m×25mのラグーンでの設置資材費用は176,820円で、面積あたりの単価は約283円/m2でした。この他に、滞留水の排出用ポンプとホースが必要です。