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酪農試験場

根釧農業試験場 研究通信10号 研究成果5

根釧農試 研究通信  第10号(2000年3月発行)

研究成果

5. 酪農地帯における新規就農者の成功要因の解明

経営科

1.試験のねらい

新規就農した酪農経営の所得水準や初期投資、追加投資などの状況を調査し、新規就農経営が安定的に営農を継続するための要因を明らかにすることを目的としました。

2.試験の方法

1)内容

新規就農した酪農経営の聞き取り、関連資料収集

2)調査対象地

中標津町、別海町、浜中町

3.試験の結果

1)新規就農経営の営農方針・営農方式は一様ではなく、様々な問題を抱えています(表1:省略)。新規就農経営は、大きく中小規模で泌乳水準が低~中である経営と、大規模で高泌乳の経営に分けられます。新規就農経営の所得水準を比較すると、中小規模経営、大規模経営双方ともに高い所得を実現する経営と低い所得の経営が存在します(表2:省略)。このことは、新規就農経営で多様な営農方針が選択されているとともに、中小規模経営でも大規模経営でも成功の可能性があること、一方で同じ展開であっても失敗する場合があることを示しています。全体として新規就農経営では、現状の経営状況に満足する事例が多く、一定程度の成果をあげられたといえます。

2)小規模、大規模の双方で、高い所得と低い所得の経営を比較し、差異発生の要因を検討しました(表3:省略)。①小規模経営で、高い所得を実現するAおよびH経営では、10年の長期実習による技術習得の上で低投入方式を志向し就農したのに対し、低い所得のG経営では就農当初、低投入方式を志向したわけではありません。G経営は就農農場の牛舎規模が狭小で十分な所得が得られなかったこと、資金的制約により追加投資が困難だったことから、低投入方式への転換を余儀なくされました。しかし、草地の生産性が低い、また実習期間が1年と短く技術力が伴わないことから、充分な経営成果があげられていません。②大規模経営で、高い所得を実現するK経営と平均的所得のM経営では、K経営は多頭化による収益追求を明確な指針とし、フリーストール施設の導入を重視したのに対し、M経営は必ずしも明瞭ではなく、追加投資として飼料作機械の更新を重視したため、その後の生産拡大が遅れました。以上から、成功の要因として、①就農段階で明瞭な営農方針をもつこと、②営農方針に即した技術能力を保有すること、③営農方針や技術水準に見合った適正な農場が準備される必要があることが示されます。

3)このことは、新規就農経営が経済的成功を実現するためには、就農者の事前評価の徹底による安易な就農の抑制、および営農方針に即した農場選定が重要なことを示しています。事前評価として、営農方針の確認、技術能力の評価、携行資金額を確認し、誰でも受け入れる状況を排除すること、また農場選定として、農場の生産力、規模や施設の営農方針への適合性、必要となる追加投資額を事前掌握することが必要です。