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酪農試験場

根釧農業試験場 研究通信10号 時の話題

根釧農試 研究通信  第10号(2000年3月発行)

時の話題

1. 英国の環境汚染防止対策技術の実態

-ふん尿処理・利用と汚染防止の先達法-

土壌肥料科・経営科

ヨーロッパの酪農環境対策技術が我が国よりはるかに先進的であることは,これまでも数多くの調査事例が報告されてきたわけですが,もう少し具体的に,北海道に導入できる対策技術があるのではとのねらいで,9月20日から22日間,英国を中心に調査しました.

ちょうど日本では新しいふん尿処理に関する規制を定める法律の施行と相前後していたため,特段に興味深く思えたことは,英国では堆肥やスラリーの2次処理にはほとんどといっていいほど,関心を寄せていないことです.そのかわり,非常によくできた水質モニタリング組織の存在のため,ふん尿を系外に出さない,つまり漏らさないことに対する神経の使いようは驚くべきものがありました.保全すべきものとして,水の他に空気があります.彼らはふん尿からのガス揮散に対しても具体的な取り組みを行いつつあります.好例はスラリー散布機に見られます.バンドスプレッダやトレーリングシューと呼ばれる地際すれすれにスラリーを散布する機械により,アンモニアの揮散が半分以下に押さえられ,同時に肥効も倍増するというものです.EC諸国全体でのアンモニア揮散への危機感は相当高いものがあるため,周囲を海で囲まれた英国においてさえ,これだけの取り組みを行っているのです.

今回の調査で目新しかった技術としてumbilical(直訳:へその緒)と呼ばれるスラリー散布方式があります.これは非常に長いホースをスラリータンクにつないで,そこからポンプ圧送したスラリーを軽量な散布機械で圃場にまくものです.この方式は非常に効率的に(高速で)散布ができるため,コントラクタ側のメリットが大きく,英国におけるふん尿散布の外部委託を促進しています.ちなみに,各種規制のペナルティはふん尿の生産者ではなく直接の散布者にかけられるため,コントラクタ自らがふん尿散布による環境汚染を防ごうとする動機付けになっていることも特筆さるべきことです.

一方,ふん尿の利用場面においては,より合理的なふん尿分析キットが実用化されていました.北海道では昨年,ECメータと乾物率を用いた養分推定法を確立したところですが,乾物率の測定がやっかいだという欠点が指摘されていました.ところが,彼らのキットでは比重計を用いて乾物率を精度高く推定するのです.言われてみれば簡単な原理で,百聞は一見に如かずとはこういうことを指すのでしょう.

このほか,MAGPIEと呼ばれる環境汚染推定マップが英国全土に構築され,農耕地における養分管理が水質にどう反映されるかが1kmメッシュで示されるという,驚くべき成果が実用化されていました.

彼らがふん尿による環境汚染防止に取り組み始めてすでに20年以上がたちます.それなのに,依然として農家の実態はまちまちで,訪問した山の中の小規模経営農家では養分の分析などしたことがないと言っていました.山の上と,川のそば,都会からの距離,地域全体の水汚染の程度など,さまざまな要因によって農家の腰の重さは異なるのは当然です.したがって,環境汚染防止対策も全道一律のものよりは,地域の特性(飼養密度や地形・土壌,水系,都会との位置関係な)に応じることこそ効率的なのかもしれません.北海道でこの種の取り組みを始めて10年たっていない今,我々は彼らの踏んだステップをよく見極め,行政とも連携して効率的な対策を樹立すべきです.