水産研究本部

試験研究は今 No.103「道内初のハタハタ種苗生産の試み-釧路機船漁業協同組合ハタハタ種苗生産実験施設-」(1992年5月15日)

浜のウオッチング~浜の声~道内初のハタハタ種苗生産の試み -釧路機船漁業協同組合ハタハタ種苗生産実験施設-

  ハタハタの増殖実験事業に取り組んでいる釧路機船漁業協同組合のハタハタ種苗生産実験施設を紹介します。

  ハタハタの種苗生産の実験事業としては全道でも初めての試みとして、去る4月10日に第1回目の種苗放流を行った施設を訪ねて釧路機船漁業協同組合の柳川さん、館岡さんにお話を伺いました。
    • 釧路機船漁業協同組合ハタハタ種苗生産実験施設
  この事業を始められた経過をお聞かせください。
  当組合は沖合底びき網漁業を主体とする業種別漁協ですが、沖合底びき網漁業については国際規制の強化が進むなかでこれまで再三にわたる減船を余儀なくされてきた経過にあります。現在この漁業はロシア(旧ソ連)200海里内での漁獲割当量の確保とともに、特に近年は生産基盤の強化を図って行くため、いかにして日本200海里内での安定的操業を確保して行くかという問題が重要視されてぎています。

  このため、当組合では平成元年から漁業資源の増大対策について検討を重ねてきた結果、魚類の人工種苗の育成・放流による資源増大対策に取り組むことになりました。ハタハタについては、その第1弾として平成3年度から施設を設置して市、支庁、水産技術普及指導所、水産試験場、日本栽培漁業協会等関係機関の協力を得ながら事業に着手してきたところです。


  ハタハタを事業の対象に選んだのは、なぜですか。
  ハタハタの漁獲は全道的には刺し網によるものが多く約半分を占めますが、沖合底びき網による漁獲も多く約3割を占めてお.り、釧路市においては沖合底びき網による漁獲が最も多いこと。また、また、ハタハタについては秋田県等においては、既に人工種苗生産技術がほぼ確立されていることからこの事業の対象としました。

  施設の概要を教えてください。
  この施設は釧路市から沖合増殖実験整備事業(市単独)による800万円の補助と、長期低利の栽培漁業等振興資金(道単独)1,000万円の融資を受け、約2,000万円の事業費をかけて建設しました。施設は78平米の軽量鉄骨平屋建ての建物のなかに、FRP4.8トン水槽4基とビン式及び円筒式ふ化器殻5本を設置し、水は前浜からポンプで汲み上げた海水を使用しています。

  施設の管理はどのように行っているのですか。
  この施設には、水産試験場の調査船に機関長として永く勤務していた工藤由春さんを専従の研究員として嘱託し、施設の維持管理、稚魚の育成等にあたってもらっています。工藤さんは、船の経験から機械類の保守管理の面に明るく、今の施設のなかには工藤さん手造りの部分がかなりあります。
 
  また、中間育成等の技術面では随時、水産投術普及指導所、水産試験場等の指導、助言を得ながら施設の管理運営を行っています。

  これまでの事業の経過を教えてください。
  平成3年9月から10月にかけて沖合底びき網漁船が漁獲したハタハタを親魚として確保しましたが、沖合底びき網で捕れたハタハタはまだ十分に成熟していないため、1ヶ月程度蓄養して成熟させました。その後11月初旬から下旬にかけて100尾程度のメスから採卵し、人工授精を行いました。ハタハタの抱卵数はメス1尾あたり1,000~1,500粒で約12万粒の授精卵を確保し、ビン式と円筒式ふ化器に分散して収容し、ふ化を待ちました。
 
  ふ化は今年2月頃から始まりふ化直後の稚魚は体長が約1センチメートルで、餌料はアルテミアと配合餌料を並行して与えました。

   4月にはふ化した稚魚のうち、早い時期にふ化し体長が1.5センチメートル程度に成長した稚魚釣3万尾を千代の浦漁港から放流しました。
現在は遅くにふ化した稚魚約2万尾を育成していますが、これらの稚魚については、今後どの段階までこの施設で育成できるのか、実験的にできるだげ長く育成してみることとしています。

  この事業を進めるうえで、苦労された点は何ですか。
  最大の問題点は親魚の確保でした。親魚は、沖合底びき網で漁獲されたハタハタを使いましたが、これは沖から活魚として運んでくるのに手間のかかること、施設に搬入後も未成熟なため、1か月程度蓄養しなければならず、また採卵のタイミングにも神経を使いました。

  最後に今後の展望についてお聞かせください。
  将来、この施設での実験成果により釧路のハタハタについて種苗生産の技術が確立された場合は、他の地区とも連携した広域的として種苗放流が行われて、ハタハタ資源の増大が図られるようになることを期待しています。

  また、今後はハタハタだけでなく、低生性が強く底びき網漁業による影響を受けやすいマダラ資源についても、人工授精、ふ化放流事業に取り組む予定としており、現在、基礎的データの蓄積に努めているところです。

  どうもありがとうございました。頑張ってください。

(釧路水試)