水産研究本部

試験研究は今 No.116「道立水産孵化場で行われている養魚廃水処理について」(1992年9月4日)

道立水産孵化場で行なわれている養魚排水処理について

  サケマス類の養魚排水は一般の生活排水と比べてきれいなことから、ほとんど処理されずに河川に流されています。しかし、年々河川環境への国民の関心が高まるにつれて、養魚排水の処理の必要性が増しつつあります。また、このことは養魚排水の再利用、つまり少ない水で魚を多く飼育することにも応用できます。このようなことからも養魚排水の処理は大切な問題ですが、現時点では経済性の面で問題がありこれからの研究開発が望まれています。ここでは、日本で初めての試みである水産孵化場での養魚排水の処理の現状について紹介します。

1:排水処理施設の目的

  水産孵化場の養魚排水の処理施設は、水源を同じくする下流に点在する養魚場に影響を与えないように養魚排水を使用前の状態に量的にも質的にも限りなく近づけるために設計されました。

2:用水系の概要

  隣接している自衛隊演習地内にある湧水池を水源として使用しています。毎分約3トン、水温8~9度の湧水が安定的に流出しており、このうち毎分2トンをポンプで揚水して使用しています。揚水した水の一部0.2トン/分は急病実験室で使用し、塩素殺菌後中和され直接川に流されます。この川水は下流にある養魚場で使用していません。残りの1.8トン/分は本館の孵化飼育水として使用されます。その後この水はスクリーンでごみを取除いたあと、そのまま屋外試験池で再使用され排水処理装置にはいります。処理した水は養魚場のある沢に戻されます。
    • 図

3:排水処理装置

懸濁物質を取除く濾過装置と、排水に出てくる可能性がある魚類病原菌の殺菌のための紫外線殺菌装置で構成されます。
1:濾過装置
  上水処理用の砂濾過器で濾過砂の汚れ具合により自動的に逆洗浄が行なわれる構造になっています。毎分2トンの処理能力があるものを二基設置しています。一基で全ての養魚排水を処理できますが、この濾過器は構造上逆洗浄時に濾過水が出なくなる特性を持っており、一基だと沢へ排水量が一時的に無くなることが起るのでこれを防ぐために二基設置しています。逆洗浄時に出る排水は生活排水の浄化槽で処理され急病実験室の排水と同じ川に流されています。ここで濾過された養魚排水は次の紫外線殺菌装置に入っていきます。
2:紫外線殺菌装置
  水の紫外線殺菌をより完全にするには、水中の懸濁物を出来る限り取除く事が必要です。これは、懸濁物により紫外線が遮られるのを防ぐためです。上記の濾過装置を通った水は、ほとんどの懸濾物質が除去されるのでそのままこの装置に流しています。

  この装置は、8本の石英紫外線殺菌ランプ(1本出力90ワット)を1セットとする紫外線照射管を十三基並列に設置した構造をしています。一基の処理能力は、毎分600リットル程度(大腸菌を完全に殺菌する能力)で七基稼働させています。

4:処理効果と今後の課題(*注参照)

  処理効果については、下の表に示しました。その排水処理装置で処理された水は、BOD、CODでほぼ原水の水質に戻っています。また、アンモニア態窒素が消失し硝酸態窒素の増加が見られ硝化作用が起きていることが推察されます。その他、燐酸態燐では除去効果がなく、生菌数では処理後検出限界以下で原水よりも少なくなり紫外線殺菌の効果が見られます。これらの結果より、窒素と燐の除去の点で問題があるもののほぼ原水の水質に回復しているのがわかります。しかし、少ないながらも窒素と燐を環境に付加している 点でまだ改良が必要です。また、ここでは触れませんでしたが設置経費とランニングコストが相当かかります。これらの点をどのように改善していくかが今後の我々の課題です。
    • 表4
※注 BODとは生物化学的酸素消費量、CODとは化学的酸素消費量でとも有機物の多さに関係します。アンモニア態窒素は水の汚染の目安で亜硝酸態窒素、硝酸態窒素に酸化されます。これが硝化作用です。魚類にとってよく問題となるのはアンモニア態窒素と亜硝酸態窒素です。燐酸態燐は有機物の分解により生じます。これも水の汚染の目安になります。窒素と燐はともに水域の富栄養化に関係します。
(道立水産孵化場:水質科)