水産研究本部

試験研究は今 No.138「ウニの天然採苗技術開発・アワビ類の生息場所と漁場造成」(1993年3月19日)

ウニの天然採苗技術開発

  北海道のエゾバフンウニの人工種苗生産技術開発は、昭和57年に北海道立栽培漁業総合センターで本格的に開始されました。それから10年を経過した現在全道で25の種苗生産施設が建設され、3,500万の種苗が放流されるまでに発展しています。このウニの人工種苗生産技術開発に先立つこと10年位前からウニの天然採苗技術開発が試みられました。

  これは、カキ・ホタテガイ養殖施設に稚ウニが付着しているのにヒントを得て、昭和46年に中央水試、後志北部水指、小樽市、小樽市漁協が協力して忍路湾で実施したのが最初でした。2年目の昭和47年には、塩ビ波板にウニ稚仔が多数付着しました。このウニを半年間飼育したところ生残率はおよそ70パーセントでした。この結果からウニの天然採苗の可能性が示唆されたので、昭和49年から10年間積丹町美国で天然採苗試験を北海道開発局の栽培漁業開発調査事業として実施しました。この調査によって、採苗器の材質、構造、設置時期、場所などを解明することができ、昭和53年から59年まで毎年50万個体以上、54年には400万個体採苗しました。

  エゾバフンウニは、日本海沿岸では9月中旬から10月下旬まで産卵し、浮遊期問は長く12月から1月ごろに沈着します。沈着時の殻径は1/3ミリメートルと小さく、3~5月には3~5ミリメートルに成長しますが、この大きさになると採苗器から脱落し易くなります。この時点で採苗器を放流適地に移動し、ウニを自然落下させて放流することにより資源添加ができれば好都合ですが、この方法を何回やっても夏の間に大部分のウニが減耗してしまいました。主な原因が小型のカニやイトマキヒトデによる食害であることが明らかになり、食害を受けないよう殻径15ミリメートル以上になるまで中間育成をすることになりました。

  中間育成は3月ごろから9月ごろまで約半年間行われ、海中育成と陸上育成の2つの手法を開発しました。特筆されるのは餌料としてオオイタドリの葉が有効であることを発見したことです。日本海沿岸ではコンブを始め餌料海藻が少ないので大量に安く入手できる野草の給餌試験を実施し、小さいウニではコンブよりもオオイタドリの葉を食べると成長が速いことが明らかになりました。

  積丹町美国では、昭和58年に150万個体生産できる中間育成施設を建設し天然採苗事業を推進してきました。しかし昭和60年には2.5万個体しか採苗できず、昭和61年の110万個体を最後に、年々減少しました。平成2年にはほとんど皆無となり、この年をもって天然採苗事業を中止し現在では人工種苗生産に頼っています。

  昭和50年代には全道各地で天然採苗試験が実施され貴重な資料が蓄積されましたが、積丹岬以北の日本海側でのみ大量採苗が可能であることが明らかになりました。積丹から利尻島の間のいくつかの漁協で実施されていた採苗事業も、美国と同様の経過で現在ではすべて中止されています。

  天然採苗数の変動は、後期浮遊幼生数の変動に相関し、浮遊幼生数は親ウニの資源量に関係があります。現在全道的にエゾバフンウニ資源が減少していますが、人工種苗放流、漁場造成、資源管理などによってウニ資源を増殖し、近い将来天然採苗事業が復活するのを期待します。
(中央水試場長 川村一廣)

アワビ類の生息場所と漁場造成

  アワビ類が生息する岩礁域の海岸に潜って観察すると、漁場といわれる海域の中に必ずしも均等に分布するのではなく、数が多い場所と少ない場所があることに気が付きます。

  これまでの研究からアワビ類では一般に地形の複雑な場所ほど生息密度が高いことが知られており、平滑な岩盤よりもくぼみや割れ目が多い岩盤、あるいは大小様々な礫からなる転石帯により多くの個体が生息しています。

  これは動作が緩慢で捕食動物から狙われ易いアワビが身を守るために割れ目やくぽみあるいは石の裏側等を隠れ場所として選択していることと、アワビ類の主な餌である流れ藻がそのような地形では溜まり易いためと思われます。

  北海道でも機根資源(ウニ、エゾアワビ)の増殖手段として、周囲を消波ブロックで囲んで中に投石を行う漁場造成が進んでいます。これは、海底の地形を複雑化し生息量を増やそうとする試みです。

  しかしこのような漁場に放流したエゾアワビが成長に伴い周囲の消波ブロックやその外側の天然漁場へ移動・拡散することがあります。その理由として、餌の不足と造成した底質が生息場所として適していないことが考えられます。

  天然の漁場へ何等かの施設を沈設すると最初は海藻が繁茂するのですが、それは長くは続かず投石した岩肌は石灰藻で被われます。そのような漁場では、餌を求めて漁場の外側に移動してしまいます。

  また、投石の隙間が稚貝には広過ぎて隠れ場所として効果がなかったり、波浪による底質の攪乱など生息場所として不安定である場合には減耗や拡散により個体数は減少します。

  これからの漁場造成においては天然漁場でのアワビの凄み場所を評価した上で、生息基質として安定性が高くかつ満等の隠れ場所がある礁など斬新なものを作る必要があるでしょう。それにはアワビの生息場所に関する生態学的観察の一層の積み重ねと室内における飼育試験を結び付けた研究が必要であると考えます。(栽培センター浅海部 干川 裕)