水産研究本部

試験研究は今 No.142「ウニの人工種苗放流における初期減耗について」(1993年4月23日)

Q&A? ウニの人工種苗放流における初期減耗について -試験研究ミニプラザから-

  平成5年3月29日に恵山町で開催されたミニプラザにおいて、放流ウニの初期減耗について提起されましたので、この内容について紹介します。

はじめに

  現在、ウニは21か所で種苗生産が行われており、その数は4,300万粒です。平成6年には7,000万粒が生産されると見込まれています。5ミリメートルサイズの種苗4,300万粒が放流され、これが全部生き残るとすれば、約360トンが漁獲されることになりますが、全部生き残る訳ではありません。むしろ死亡する種苗の方が多いのです。そこで水試では、放流ウニの生残率を高め、漁獲量の増大を目ざして漁業者のための「ウニ人工種苗放流マニュアル」を作っています。これには、非常にたくさんのデータに裏付けられた科学的・専門的見解が盛り込まれておりますが、結論としては「少しでもウニを長く生かすためには、当たり前の知識を生かすべきだ」ということです。
    • 図1,2,3
残留率(回収率)について
  図1には津軽海峡における放流ウニの残留率を示しました。縦軸が残っている率で、横軸が何か月経ているかを表しています。恵山では、多くのものがまいて半年も経たないうちに10パーセント以下になってしまうことがわかります。

  この原因は何かということが問題となります。
水温について
  図2には恵山町におけるエゾバフンウニの生産量と金額の推移を示しましたが、平成2年を境にして漁獲が落ち込んでいます。逆にキタムラサキウニは、昭和63年に全体生産額の10パーセントであったものが、平成4年には半分以上を占めるようになってきました。

  キタムラサキウニの占める割合が増えてきた原因は、平成2,3年の夏場に水温が例年より上昇したため、天然及び放流のエゾバフンウニが死滅したことによるものと思われます。エゾバフンウニを放流する時期は、水温の高い時期や場所をさけて作業することが非常に大切になります。
放流前の育成について(籠か磯か?)
  なぜ育成するかというと、放流してから死なないようにするためです。

  現在、行われている育成方法を図3で検証してみました。

  平磯での育成は、まいた時からかなり落ちており、籠に比べて効率が悪いことがわかります。また、移殖する時にさらに1割程落ちます。これは、岩からはがす時にどうしても足が折れることから、死亡につながっているのです。

  それでは、籠での育成が一番良いことになりますが、コスト、餌、手間がかかるという問題があります。今の試算でいけば、種苗1個が25円くらいかかることになり、採算べ一スを考えるとキロ1万円で売れ、かつ、25パーセント生残る必要があります。
これからどうするか。
  ウニ自身に死亡の原因があるときに、そのウニの性質のことを「健苗性」と呼んでいます。放流にあたっては、充分に健康な種苗をつくる必要があります。

  ウニが海からいなくなっている場合、密漁が考えられることから、これを防止することが必要です。さらにやっかいなことに、海の場合には人間以外にもヒトデやカニなど、ウニを食いたい連中はたくさんいるのです。これを食害と言っています。この原因となるものを駆除することが必要となりますが、なかなか良い方法が確立されておりません。当面は、漁業者の方に籠やヤスで害敵駆除と取り組んでもらうことにしていますが、水産試験場ではより効果的な技術を開発していかなければならないと考えております。(函館水試増殖部 野沢 靖)