水産研究本部

試験研究は今 No.149「活ウニの蓄養施設について」(1993年6月25日)

活ウニの蓄養施設について

  今年も本道最北の地利尻、礼文に観光シーズンが訪れました。

  今年はバブル崩壊の影響からか、出足は鈍いとは云うものの、フェリーターミナルには大型バスが待機し、小旗を手にした添乗員を先頭にツアー客の一団がフェリーから降りてきて徐々に賑わいを見せてきました。

  離島観光は最北の大自然の景観となんと云っても新鮮な魚介類が目玉になっています。

  しかし礼文島ではアワビは20万規模の人工種苗放流を実施して資源回復に努力しておりますが、禁漁措置がとられ、またウニも資源不足、魚価高などから十分に提供できていないのが現状です。

  また輸入ウニが食卓に上るのも珍しくないようです。

  そういった中で礼文町香深の加工業者さんが活ウニを提供するための蓄養施設の建設に踏み切り、完成させました。

  この加工屋さんは従来から一塩ウニ等の加工を行っていましたが最近は加工ウニの販売が思わしくなく、また「高くても良いから生のウニを食べてみたい」との観光客のニーズが意外と高いことに注目し、長期にウニを蓄養出来ないか検討し今回の事業開始となったものです。

  施設は取水装置、海水のろ過装置3基、容量14トンのコンクリート製水槽3基、氷温冷蔵庫及び海水冷却装置からなり、農林中央公庫からの融資によって建設したものです。

  蓄養海水は循環水として使用しており換水する際に香深地先からポンプアップしています。ろ過能力は14トン/時程度です。

   地元の漁協と契約して購入したウニ(キタムラサキウニ)は一旦氷温冷蔵庫に保管するとともに、鮮度不良のものあるいは刺の折れたものなどは加工用に振り向け、鮮度の良い、また殻径60~70ミリ前後の大型のものを中心に蓄養しています。水槽には重量で800~1,000キロ程度収容することが出来、ポリエチレン製の蓄養籠に平均30個程度収容して蓄養しています。

  杉本ら(北水試報24(91-99)1982)の報告によれば北海道北部沿岸のキタムラサキウニの生殖巣指数(生殖巣重量×100/全重量)は8月に最高になり9,10月に減少、11月に最低値をとることで共通しており、産卵期は9~10月と推定しています。

  また礼文島では8月に最大値25を示し、11月には指数は約10に低下すると報告しています。

  この報告によればウニの可食部が盛期40パーセント程度になり、活ウニの商品としての価値を失ってしまうことになります。

  業者の方の話によると氷温冷蔵庫での保管と異なる温度での蓄養を組み合わせることにより、5月末に事業を開始してから現在までの1月程度の蓄養の実績でも生殖巣の変化はないとのことです(異なった温度設定にノウハウがある模様)。

  蓄養中食味の低下もなく、また減耗もそれほど大きくないとのことです。また、給餌をしていないため裁割をした際に内臓に餌がないため剥きやすいとの利点もあるとのことです。

  しかし高水温時の冷却に要するランニングコストがどの程度のものになるか懸念されます。

  筆者らが訪問した際も道外からの観光客とおぼしき一行が裁割された殻から上手に身を取り出し賞味していました。

  まだ始めたぱかりとのことで1日どの程度の個数が提供出来るか不明ですが、大きな期待を持っているようです。

  礼文島のウニの生産数量を図に示します。エゾバフンウニの単価は87年の7,400円から91年には、21,000円と著しく上昇していますが、生産量は88年の約28パーセントにまで減少しており、相対的にキタムラサキウニの比重が高くなってきており、これを有効に利用する必要があります。

    • 礼文町のウニの生産量の変化
  また、礼文町ではウニ漁業は重要な地位にあります。今後ウニ漁業を発展させてゆくためには、管理型漁業を推進してゆくとともに付加価値の向上が求められています。

  東京などの活魚店ではマイカが1尾数千円で売られており、まだまだ活魚ブームは健在です。現在この活ウニは1個数百円で売られており、大消費地への活ウニの輸送も含めて、礼文町でのこの付加価値向上の試みがどのように推移するか大変興味のあるところです。〔稚内水産試験場:主任専技〕〔礼文地区水産技術普及指導所〕