水産研究本部

試験研究は今 No.259「日本海のニシンの増大をめざして」 (1996年3月29日)

日本海のニシンの増大をめざして

  かつて、日本海では90万トン(推定)を超える漁があったニシン。

  今は、前浜に目立った姿を見せなくなった幻の魚。

  日本海の漁業者は、当時の大漁のことを回想し酔いしれる。ニシン番屋、ニシン御殿・・・・ニシンはどこに行ったやら・・・・
ニシンには、日本海の夢がある。今回は、その日本海のニシン増大に向けた期待と取り組みについて述べたいと思います。

  日本海のニシンは、明治中期から昭和20年代後半まで数十万トンの漁獲がありましたが、数千一トンさらには近年は、数百トンの漁獲に止まっていて、これほどまでに減少した後回復しない原因は、はっきりわかっていません。

  また、その生態についても不明な点が非常に多い魚です。現在、わかっていることについて、今までの水産試験場などが行った調査の結果についてまとめると、日本海に生息するニシンの系群(グループ)は北海道・サハリン系群、石狩湾系群、テルペニア系群の3つに分けられるとのことです。この中で、昭和初期に大漁をもたらしたのは、北海道・サハリン系群と考えられ、サハリンから北海道の間を大きく回遊しています。また、地域的なグループとしては、石狩湾系群があり、分布が石狩湾から留萌沿岸付近に限られるものと考えられています。非常に資源量が少ないものとしてテルペニア系群があり、これはサハリンのテルペニア湾で産卵されていると考えられているグループです。これらの3つのグループはそれぞれ特徴を持っていますが、総体的には非常に資源変動の大きい魚種です。

  道としては、日本海漁業の振興を図るうえでも、ニシンの資源増大に力をいれることとなり、平成7年に水産部内に「日本海沿岸性ニシン資源増大ブロジエクトを設け検討を行ってきました。その結果として、平成8年度から平成13年度までの6カ年を第1期の事業期間とし、その結果をみて2期目の事業内容を検討していくということで、内容は大きく分けて3つの方針で進めることとなりました。(次ペ一ジ図)
    • 日本海ニシンの増大対策の概要
  1. 稚魚の育成・放流
  2. 産卵場の造成
  3. 資源の管理
  まず一つ目として、人間の力によって稚魚を数百万単位で生産、放流し資源を
増大させる方法があります。種苗生産技術については、(社)日本栽培漁業協会厚岸事業場が風蓬湖の湖沼性のニシンで開発を進めている事例があり、それを応用しすすめることにしています。

  専門的なことについては、後続の「試験究は今」で述べられることとなりますが、ここでは概略について述べたいと思います。

  親魚は、3月頃刺網等で漁獲されますが、1尾から2~3万粒採卵されます。卵は粘性を持ち他のものへ付着しますので、人工受精の後、艀化盆(約30センチメートル四方)に付着させ陸上の艀化水槽で管理します。
このような性質があるので、天然では藻の上に卵を付着させます。

  ふ化日数は40日程度、体長が45ミリメートルになると海中で中間育成を行い、70ミリメートルで放流します。

  平成8年度では石狩湾において10万尾、平成9年度は石狩湾、留萌地域で40万尾、平成10年度からは石狩湾、留萌、宗谷地域で100万尾の放流を予定しています。ニシンの来遊・産卵時期が到来したことから、平成8年度に向けて本年2月から水産試験場が親魚の成熟度調査を実施しており、2月下旬から採卵が可能となりました。そのため、3月6日に採卵予備試験を実施、成功したことから3月14日に厚田村において、水産試験場と水産技術普及指導所が中心となり、地元の協力を得て10万尾放流に可能な卵数を採卵、その場で受精させました。卵の成熟度合いは良好で、その後すぐに羽幌町にある北海道栽培漁業羽幌センターへ移送し、現在水槽内で飼育しています。

  今後の予定については、卵は4月上旬に艀化する見込みで、同センターで5月下旬まで飼育後、厚田村の漁港内で中間育成、6月下旬に海に放流する予定です。2つ目に、産卵場の造成がありますがこれは、天然界での資源増大を促進させようというもので、産卵に適した環境と藻場造成技術の検討により施設等を造成しようとするものです。3つ目に、ニシン資源の分布や成長などの基礎調査や漁業実態を把握し、資源保護等の対策を検討する資源管理手法の確立があります。このように、ニシンの資源を増大させるためには、総合的な技術開発の取り組みが必要であり、地元と連携し様々な機関の人がそれぞれ役割を持って携わる大きなプロジェクトとなっており、今後その効果が期待されています。(水産部漁政課)