水産研究本部

試験研究は今 No.269「中央水産試験場研究発表会講演から-染色体操作の応用による養殖用ヒラメの優良品種作出試験-」(1996年6月28日)

中央水産試験場研究発表会講演から -染色体操作の応用による養殖用ヒラメの優良品種作出試験-

はじめに

  北海道では、日本海地域の漁業振興を図るため、近年、魚類の養殖試験が各地で盛んになってきています。特に、日本海のホープとして期待の大きいヒラメは商品価値が高く、各方面からも注目されています。しかし、北海道においては、冬季間、水温が低いため、成長が鈍ることになります。本州に比べて低水温期間が長く、自然条件が厳しい地域でヒラメ養殖業を営んでいくのは、大きなハンディを負うことになります。結果として、本州よりも養殖育成に長期間を要することとなり、その間の急病の発生なども問題になってきます。そこで、これらの問題を解決し、北海道の環境に適した養殖用の種苗を生産できるようにすることが求められてきます。水産試験場では、染色体操作などのバイオテクノロジー技術を応用して、低い水温でも成長が良く、短期間で成長する品種を作り、ヒラメ養殖業の振興と安定化を図ろうとするための試験研究を行っています。

試験の方法

  ヒラメ・カレイ類においては、産卵期のずれている種類が多いので、交雑に必要な精子を、一定期間、受精可能な状態に保存しておく必要があります。長期保存となると、凍結が必要になるので、畜産分野などで実用化されている液体窒素(ー196℃)を用いた凍結保存法の検討を行いました。今回は、(1)主にサケ・マス類で行われているペレット法(錠剤化凍結法)と、(2)家畜などで使用されているストロー法の2つの方法で検討しました。
次に、異種間交雑を行う際に、受精が可能かどうかの問題となる精子頭部と卵門の大きさを、走査電子顕微鏡により観察しました。

  また、染色体操作のための精子の紫外線不活性化処理、および染色体倍化処理法の検討を行いました。
    • 図1

結果と考察

  平成4年度から行われてきたこの研究の中で、ヒラメ・カレイ類の精子の凍結保存技術は、ほぼ完成させることができました。ペレット法で凍結保存したヒラメ精子を使って、未受精卵と受精させた場合には、受精率20パーセント、ふ化率15パーセントが期待できる結果が得られました(卵の量が4,500粒までの場合)。試験場では現在、ヒラメのほかに、オヒョウ、マツカワ、マガレイ、クロガシラカレイ、マコガレイなどの精子を凍結保存中です。

    • 図2
  次に、電子顕微鏡で観察したヒラメ・カレイ類の精子頭部の大きさは、魚類により多少異なりましたが、ヒラメと大差ないことが分かりました。

  異質倍数体の作出試験では、ヒラメの卵にカレイ類精子を受精させ、その後加圧処理を施すととで、極めて低率ながら倍数体魚が得られました。この技術を利用して、昨年度はソウハチ雄Xヒラメ雌の異質3倍体魚を作出し、現在、水槽で飼育しています。これらの魚は、細胞の中の仁を染色することにより、倍数性の判定が可能です。

  一方、紫外線不活性化精子を使用した雌性発生により、ヒラメの全雌魚の作出が出来るようになりました。また、クローン魚の元となる完全同型接合体魚を作出することに成功しました。

今後の課題と8年度の計画

  今後は、異質3倍体及び4倍体を高率に作出することが課題です。また、ヒラメの完全同型接合体魚を親魚まで養成し、雌性発生によりクローン魚を作出することが残された課題です。

  精子の凍結保存についても、技術的には一応の完成をみていますが、凍結解凍後の精子活性の低い魚種については、再試験を行っていく予定です。
(資源増殖部斉藤節雄養殖科長)
 *文章は要旨集から抜粋編集しました。