水産研究本部

試験研究は今 No.274「利尻島の磯焼け漁場での効率的なウニ採取方法の開発に向けた取り組み」(1996年8月2日)

利尻島の磯焼け漁場での効率的なウニ採取方法の開発に向けた取り組み 磯焼け対応システム開発事業の平成7年度調査結果について

はじめに

  北海道の日本海沿岸では、磯焼け現象が深刻な問題になっています利尻島でも海藻が少なく磯焼け状態と思われる海域が見られます。この原因の一つとして、ウニ類の食害が考えられています。これまで、ダイバーによるウニの除去を試みたところ、海藻が生えてくることが実証されました。しかしこの方法では経費もかさみ漁業者に普及できないことが難点です。地元からは実効ある磯焼け対策が望まれています。

  社団法人マリノフォーラム21では、本道日本海海域の磯焼け地帯で、磯焼けの持続原因とされているキタムラサキウニの捕獲、石灰藻剥離の効率的機器開発を行う目的で、平成7年度から3カ年計画で磯焼け対応システム開発事業を開始しました。現在、ウニの捕獲には空気と海水を噴射してウニを海中に舞いあげて、家庭で使っている掃除器の原理により、ウニを吸い上げる方法(気水噴射方式)、花を生けるときに用いる「剣山」のような多数の針のついた道具で石灰藻に打ちつけて剥離する方法(針束打撃方式)などの装置が技術開発されており、これらの装置が取り付けられた浮体(作業船)で、利尻島の磯焼け地帯で実施試験を行う予定となっています。稚内水試ではこの試験を行う場所(海域調査)の選定や開発されたウニ捕獲機器の性能をみるために既存の漁具による漁獲効率を調査(ウニ捕獲試験)したり石灰藻剥離後に海藻群落がどのように形成されていくかなどについて、調査試験を行う予定です。平成7年度に行った海域調査とウニ捕獲試験から次のようなことが分かりました。
1.調査区のウニの分布と海藻生育状況
  利尻島沿岸の磯焼けにより海藻が見られない沓形種富、仙法志神磯、鴛泊湾内、鬼脇石崎の4地区を実験区とし、対照区は実験区と異なる仙法志神磯の海藻のある地区1カ所を選定しました(図1)。

  平成7年10月、潜水により行った調査では、ウニ類の生息密度は、対照区の3個体/平方メートルに対して、実験区では11.6~29.7個体/平方メートルと多く、海藻の種類は、実験区には無節石灰藻類の他はほとんど見られなかったのに対して、対照区はスガモ、フジマツモ等の海藻が生育し、海藻現存量は平均1,408グラム/平方メートルでした。

  今回の結果から、鴛泊と鬼脇地区においては、従来優占種だったエゾバフンウニに代わってキタムラサキウニが優占しており、磯焼けが進行していることが分かりました。
    • 図1
2.カゴによるウニ類の捕獲試験
  平成7年10月に、カゴによる捕獲試験を行いました。使用したカゴは3種類(図2)で、餌はコンブ、サケ、フシスジモク(海藻の一種)を用い、これらの組み合わせによる9種のカゴを設置し、一昼夜後に回収して、捕獲されたウニや他の動物を計数しました。

  カゴのタイプによるウニの入り方に差は出ないようでした。また、餌の種類別ではウニの捕獲数から、エゾバフンウニは餌の選択性があるようで、コンブ、フシスジモク、サケの順に良い結果でした。
    • 図2
3.捕獲率および蝿集率
  地区別・餌別のキタムラサキウニの捕獲率は図3にみられるように、鬼脇ではコンブとサケが高い値で、鬼脇以外の地区では低い値でした。蝿集率も鬼脇では極めて高く、ここ以外の地区では低い値でした。

  以上のように、カゴのタイフ別および餌の種類別の捕獲率、蝿集率について検討しましたが、鬼脇地区以外ではいずれも数値が低く、ばらつきも大きくなりました。鬼脇地区での値が高くなった理由としては、ウニの分布密度が他の地区よりも高かったこと、調査時の海象が非常に静穏であったことが考えられます。

  カゴを使ったウニの捕獲状況は、時期、ウニの生息密度や海藻の有無、天候、海象条件、さらには海底地形等の状況によって左右される結果となりますので、さらに調査を重ねて、開発機器との比較検討が出来ればと考えております。 (稚内水試資源増殖部菊地和夫)
    • 図3