水産研究本部

試験研究は今 No.282「生ウニの長期貯蔵技術試験について」(1996年10月25日)

生ウニの長期貯蔵技術試験について

はじめに

  「生ウ二は冷凍保存できない。」これが一般的認識だと思います。この夢のような技術開発に挑み、これまで数多くの報告や特許などが出されていますが、未だ実用化されたものはありません。

  今回、ブラザ関連調査研究事業の中で超高圧処理装置を用いた生ウニの長期貯蔵試験を行いましたので、その概要を紹介します。

材料と方法

  材料のウニは平成7年8月、小樽市前浜で、後志北部地区水産技術普及指導所の協力により採集したキタムラサキウニを使用しました。これを表1に示した3種類の方法で超高圧装置にかけ、試験をしました。

  なお、試験は網走水産試験場紋別支場に設置してある機械を使用しました。

  超高圧処理というのは近年、食品加工業界に応用導入された技術です。これは食品に数千気圧もの高い圧力をかけて食品中の微生物を減らしたり、タンパク質を変化させることができ、新しい食品素材の開発にも応用出来ます。

  今回は、ウニを冷凍保存する場合の前処理方法として超高圧処理が有効な手段になるのではないかと考え、貯蔵試験を行ってみました。

  食塩水に漬けた後、超高圧処理(100~300メガパスカル)し、水切り後に、冷凍保存することによって可能であることが確かめられました。これにより、1ヵ月間の貯蔵でも身崩れすることなく、生ウニの形状が保持されることが分かりました(表2)。

塩分と色調について

  試験区分1について、標高年処理前後のウニの水分、塩分、色調の変化を調べました(表5、図1)。ウニを食塩水に漬けて加圧すると、圧力上昇とともに塩分は増加する傾向を示しましたが、水分はウニの個体差のためか、一定傾向を示しませんでした。また、色調についても明度(L)、赤色度(a)、黄色度(b)の数値とも、大きな変化は示さず、肉眼的にも、ほとんど変わらない状態に感じられました。

おわりに

  今回の試験により、生ウニの冷凍貯蔵は不可能ではないことが示されました。この技術が確立されれば、端境期の出荷も可能となり、価格維持による漁家経営安定も図られるでしょう。しかし、現在のところ、超高圧処理装置は非常に高価な機械であるため、今後は、より実用的な方法の開発が期待されます。(中央水試 加工部 金子 博実)
    • 図1
表1 試験方法
区分 処理方法
試験1 カマボコ用ケーシングに3パーセント食塩水と生ウニを入れ、20分間加圧処理(100~300メガパスカル)後、ケーシングから取り出し、30分水切り後、-30度で冷凍した。
試験2 上記の加圧処理まで同様に行い、水切りせずケーシングごと冷凍した。
試験3 ウニを冷凍し(-30度)、真空包装後、-20度で試験1と同様の加圧処理をして、再凍結した。
各々、1カ月後に5度で解凍し、状態の観察を行った。

 

表2 試験1の解凍後の状態
区分 4週間後
100メガパスカル 生とほとんど変わりなし
200メガパスカル 同上
300メガパスカル 若干蒸しウニ状態
*100メガパスカルは、約1,000気圧

 

表3 試験2の解凍後の状態
区分 4週間後
100メガパスカル 房状の形状は維持しているが内部は溶解
200メガパスカル 同上
300メガパスカル 同上

 

表4 試験3の解凍後の状態
区分 4週間後
100メガパスカル 房状の形状は維持しているが内部は溶解
200メガパスカル 同上
300メガパスカル 同上

 

表5 超高圧処理による水分、塩分変化(パーセント)
区分 水分 塩分
処理前 64.2 1.7
100メガパスカル 67.0 1.7
200メガパスカル 63.1 1.9
300メガパスカル 67.9 2.3