水産研究本部

試験研究は今 No.280「下痢性貝毒の毒化原因調査についての新たな取り組み」(1996年10月4日)

下痢性貝毒の毒化原因調査についての新たな取り組み 水産試験場「貝毒プロジェクト研究」から

はじめに

  北海道沿岸では、ホタテガイの増・養殖事業が大規模に行われていますが、毎年のように下痢性貝毒による毒化がみられ、ホタテガイの安定した計画生産のために毒化の予知・予測技術の開発が望まれています。

  下痢性貝毒は、1976年に宮城県で発生したムラサキイガイを原因食品とする食中毒で初めて明らかとなり、患者の主な症状から一「下痢性貝毒」と命名されました。その後、各種の毒成分とそれを産生するプランクトンが明らかにされてきましたが、下痢性貝毒によるホタテガイの毒化については未だに不明な点が多いのが現状です。

なぜ今、毒化原因調査なのか

  下痢性貝毒の発生については、貝毒成分を産生するプランクトン(貝毒プランクトン)をホタテガイが摂餌することにより、ホタテガイの中腸腺に貝毒成分が蓄積し、その結果、毒性値が上昇するという図式を基に、本道沿岸での貝毒プランクトンの分布動態を中心に、海洋環境やホタテガイ毒性値との関連がこれまでに調査されてきました(図1)。

  その結果、本道沿岸での貝毒プランクトンの分布域は日本海南部沿岸域から北部、オホーツク海北部、南部、さらに根室海峡へと時間経過とともに移っていくことが明らかにされてきました。しかし、貝毒プランクトンの発生とホタテガイの力の間には必ずしも高い相関関係は認められていません。
一方、下痢性貝毒による毒性値の上昇には貝毒成分だけではなく、中腸腺に含まれる遊離脂肪酸の関与も大きいことが指摘されていました。

  実際に、ホタテガイ中腸腺に含まれる貝毒成分や遊離脂肪酸が出荷規制の基準となるマウス毒性値に、それぞれどの程度関与していたのかを、1994年と1995年の2年間、オホーツク南部および噴火湾海域で調べた結果では、下痢性貝毒による毒化の原因は、貝毒成分だけでなく、遊離脂肪酸もかなり大きな要因となっていること、また、それぞれがマウス毒性値に関与する割合は海域、年度、時期により大きく異なることが明らかになりました。(結果の詳細については「北水試だより」第35号に掲載)

  従って、下痢性貝毒の予知・予測技術の開発にあたっては、これまでの海洋環境や貝毒プランクトンといった要素に、餌や、ホタテガイ体内での貝毒成分や遊離脂肪酸の蓄積状況を加えた4つの要素とホタテガイ毒性値の関連について総合的に調査を進める必要がでてきました。(図1)
    • 図1

新たな毒化原因調査

  以上のことを踏まえ、水産試験場では「北海道沿岸における下痢性貝毒による毒化特性の解明」を貝毒ブロジエクト研究の重点研究課題として位置付け、今年度から新たな調査を実施することになりました。この調査は、水産指導所、関係漁協の協力を得て、噴火湾西部(八雲)、日本海北部(小平)、オホーツク海南部(常呂)に定点を設け(図2)、水温、塩分などの海洋環境と貝毒プランクトンやホタテガイの餌となるプランクトンの種類を調査するとともに、それぞれの定点でホタテガイの餌と中腸腺を同時に採取し、その中に含まれる貝毒成分と遊離脂肪酸の種類と量から、本道周辺での下痢性貝毒による毒化特性を明らかにしていくものです。 (網走水産試験場 紋別支場)
    • 図2