水産研究本部

試験研究は今 No.297「後志のキタムラサキウニについて一考」(1997年3月14日)

後志のキタムラサキウニについて一考

後志のウニ漁業

  後志管内ウニ漁業は、キタムラサキウニ(のな)とエゾバフンウニ(かぜ)が生産対象ですが、近年の海洋環境変化と磯焼け現象の進行により、両種とも漁業生産や増殖方法は、大きな影響を受けている状況にあります。
漁業量は、エゾバフンウニは昭和61年の80トンから減少し近年は20トン台で推移しています。キタムラサキウニでは、ウ二漁業における生産量比率の85パーセントを占めるまでに至りながらも、資源の行先きが心配される状況にあり、将来に向けた資源の有効利用が課題となっています。

  エゾバフンウニの増殖では、人工種苗生産・放流を基本とした増殖技術開発及び資源管理を、我々研究機関も浜と一緒になり展開しています。

  一方キタムラサキウニでは、磯焼けと非常に強い関係にあることが、示されており、今後磯焼けした浜における藻場の回復と、漁獲対象となるキタムラサキウニ資源の維持、管理及び利用については工夫が必要であり、皆で考えてみる時ではないでしょうか。手法としては「移殖」と「養殖」が考えられます。
    • 後志管内ウニ漁業量の変化

ウニを集める(移殖)

  移殖の方法は、昔から行われている前浜での移殖と他地区からの小型ウニ購入があります。当管内でもほとんどの漁協で、様々な移殖が実施れ、その効果が生産に大きく関与しているとの見方が多数です。

  しかし移殖の行われ方は、例えば(1)歩留まり向上のため(2)成長促進のため(3)密度調整による海藻着成のため等ありますが、それぞれの目的に最も適した漁場利用方法と、その技術開発が必要となります。また『移殖で獲ったウニは誰の物?』という問題が出てくるため、浜での漁場調整が非常に大切になってきています。

ウニを飼う(養殖)

  さて、移殖したウニに人為的に餌をやり続けていくと、「磯焼け対策にもなるし、深所の身入りの悪いウニの有効利用にもなるし、冬季の魚肉給餌も加え早期出荷で稼ごう。しかし、どうせやるなら...」と、養殖に発展していく状況が生じます。

  ここではなによりも新たな漁業形態の捉え方が必要になってきます。さらに共同化、区画化、等漁業権からの検討・取り組み姿勢も必要です。

  当管内では、海域特性総合利用技術開発調査による高密度肥育試験施設(寿都町)と平成8年に完成した養殖場施設(泊村)があります。

  ここではより現実的に、誰が、どこから、どうやって、どれだけ獲って、誰が飼うのか、そしてどう販売するのか、といった養殖事業の展開に向けた体制づくりの検討が始まろうとしています。
    • 養殖所
    • 高密度肥育試験施設

キタムラサキウニ資源管理に向けて

  磯焼け海域でのキタムラサキウニの資源管理技術の開発には、いろいろな視点からの検討が必要となっています。
  1. 効率的なウニ採取方法、ウニ行動制御方法の開発等、ウニの集約方法のデータ化
  2. 餌条件による生殖巣成分の解明、餌海藻の種類と量による生殖巣の発達状況解明、人工餌料等有効なエサとその給餌方法の開発
  3. 対馬暖流の流量予測による稚仔の発生、海藻繁茂に沿った移殖・養殖のシステム開発などがあります。
  4. そして、共同化等新たな漁業形態へ向けた検討を忘れてはなりません。
  いずれも地域の条件に即した、キタムラサキウニ漁業の将来を考えた、資源管理手法解明への取り組みが必要です。
  海の恵みを受けて仕事する者皆で、知恵を出し合い、夢を語り合い、海を生かしていきたいものです。(中央水試 水産業専門技術員 吉田 眞也)
    • キタムラサキウニ資源管理に向けて