水産研究本部

試験研究は今 No.294「秋サケフィレーの品質の数値化めざして」(1997年2月21日)

試験研究は今 No.294「秋サケフィレーの品質の数値化をめざして」(1997年2月21日)

秋サケフィレーの品質の数値化をめざして 品質管理の重要性

  近年、魚全体の流通販売体制は、秋サケを含めて大きく変化しています。従来、私たちは魚を買う場合、ほとんど専門の魚屋さんで買っていましたが、現在では半数以上をチェーン化された量販店の魚コーナーで買うようになりました。さらに、外食・惣菜産業で消費される魚の量も著しい伸びを見せています。こうした量販店、外食・惣菜産業ではその性質上、扱う商材に対して量のまとまりと品質の均一性を強く求めます。このような中で、秋サケは冷凍品、塩蔵品、生鮮フィレー等、様々な形態で市場に流通し、消費されています。この際、漁獲から加工・流通、販売に至る各段階で、それぞれに携わる関係者が品質管理の重要性を十分認識し最善の努力を払っており、その重要性はますます高まっています。

品質評価の問題点

  サケ・マス類の品質は、単体の成熟度合、鮮度、肉色(赤みの度合い)等を参考にして人間が総合的に判断・評価しています。しかし、人間による判断・評価では、どうしても評価する人により評価の食い違いが生まれます。また、現在のサケ・マス類の品質評価基準は肉色に重点を起きすぎている傾向があります。

  買い手側はどうしても見た目で選ぶしか評価の方法がないため仕方のないこととはいえ、脂が程良くのって旨味に富んだ秋サケ本来の旨さを評価するには肉色だけの情報では不十分と考えられます。

  実際、果物の場合には見た目だけでなく、その甘さを糖度で数値化して評価判断の参考にしています。サケの旨さは複雑な構成からなっていますが、その中で旨味成分が大きな役割を果たしていると考えられます。しかし、サケの商品価値を損なわずに迅速に旨味成分を測定する方法は今までありませんでした。そこで、この実現を図る一歩として、近赤外線を利用して秋サケフィレーの肉色、旨味成分、水分、脂肪を迅速に測定する方法の基礎的試験を行いましたので紹介します。

近赤外線測定器による品質の数値化

  近赤外線とは、図1に示したように波長の長さで比べると、可視光線(目に見える)と遠赤外線との間に位置し、遠赤外線と近赤外線を合わせて赤外線といいます。
    • 図1
図2
  サケの肉面にこの近赤外線を照射すると(もちろんこのときサケは焼き魚にはなりません)、肉に含まれる水分、脂肪等の成分がその含量に応じて近赤外線の波長の部分を吸収します。このため、あらかじめ従来の方法で測定した秋サケ肉の水分量、脂肪量、旨味成分量と近赤外線の吸収度合いの関係を図2の近赤外線測定器に記憶させておきます。そして、実際の品質評価の際には、図2のように秋サケフィレーの内面にセンサーを当て、近赤外線を照射し、肉から反射してくる近赤外線の吸収度合いからその秋サケの水分量、脂肪量、旨味成分量を数秒のうちに測定して数値化します。また、センサーには肉表面の可視光線の情報も入ってきますので、肉色の赤み度合いも同時に数値化されます。こうして、数秒で秋サケフィレーの品質評価の参考となる数値が出されます。

近赤外線測定器の問題と今後の課題

  近赤外線を利用した品質評価にはいくつかの問題点があります。第一は機器が非常に高価であること、第二は魚の内面が露出したフィレーや切り身てなければ測定できないことです。今後は、これらの問題点を解決して一般に普及しやすい技術としていく予定です。(釧路水試利用部 錦織 孝史)