水産研究本部

試験研究は今 No.261「水産工学実験施設と魚群行動実験」(1996年4月19日)

水産工学実験施設と魚群行動実験

はじめに

  平成6年4月、中央水産試験場に、水産生物の行動特性と生息環境との関係を明らかにして生物に好適な環境を造るための研究を行う部門として、水産工学室が発足したことは「北本試だより26号」で紹介されました。そこには実験施設として波、流れ、水温、光、音など沿岸の海洋環境を再現して生物の観察や実験ができる3つの大型実験水槽が配備されています。

  水産工学室では今、この実験施設を用いていろいろな実験に取り組んでいます。

  今回は、この中から流れを起こすことができる実験水槽を取りあげその特徴と水槽を使って行っている魚群行動実験の一部を紹介します。

流動環境シミュレーション水槽

  実験水槽は長さ15.0メートル、幅2.0メートル、高さ4.5メートルで約50トンの海水が入り、下部に取り付けられた左2枚、右2枚のプロペラ(インペラ)の回転によって一方向の流れ(定常流)と正逆方向の流れ(振動流)の2通りの流れを起こすことがそきます(図1)。上部側壁は強化ガラスが施されて水槽内の様子が観察できるように工夫されています。さらに、水温を一定に保てるとともに海水で錆びない特殊な材質が使われています。したがって、この水槽は沿岸の波や潮流などによって生じるさまざまな流れを再現し、海洋施設の作り出す流れやそれに対する生物の行動に関する実験に適しています。

  実験の目的の一つは、ある環境条件における一定の決まり(法則性)を見つけることにあります。しかし、野外実験では自然の環境条件が複雑であるために結果をまとめ、その法則性を明らかにするには多大の時間と労力がかかります。そこで、環境条件(例えば流れ)を簡単にして結果を整理することにより、法則性を見つけ出すために水槽実験を行います。
    • 図1

魚群行動実験

  沿岸整備開発事業により北海道沿岸にも水産生物を漁獲あるいは保護、増殖する目的で人工魚礁が投入されてきました。

  これによって例えば、後志地区の魚礁漁場ではアイナメ、ソイ類、ホッケ、ヒラメなどが集まり効率的に漁獲されています。魚礁へ魚が集まる(蝿集)ことは潜水や水中テレビカメラなどによって観察されており、その理由として過流効果、陰影効果・餌料効果あるいは音響効果などが考えられています。しかし、過流効果をとっても、魚礁に魚がどのようにして蝿集するのか流れとの関係など不明な点があります。それらを明らかにすることは、魚礁の設計や設置計画を立てる上でも重要なことです。そこで、流れと魚群の行動性状との関係を調べるために水槽実験を行いました。実験には、魚礁に蝿集する代表的な魚として、ホッケ(体長25~30センチメートル)、キツネメバル(21~24センチメートル)およびアイナメ(25~30センチメートル)を5尾ずつ用いました。この実験魚を水槽に入れて流れを変えた場合の魚群の行動を水槽の真上からビデオカメラで観察し、記録画像から解析しました(写真1)。その結果、流れがない場合にはホッケは広い範囲を遊泳する(図2)のに対してキツネメバルは狭い範囲を遊泳し、アイナメはほとんど移動しないこと、流れの中では3魚種ともに流れの来る方向へ頭を向け、ホッケとキツネメバルは遊泳し、アイナメは遊泳せずに水槽の底に体を密着させていること、流れに逆らって泳ぐ能力はホッケがキツネメバルよりも優れていることなどが分かりました。

  引き続き、魚礁を入れた場合の流れの変化と魚の行動について水槽実験を行う予定です。
    • 写真1
    • 写真2

おわりに

  水産工学室は大学や民間の研究機関、道水試の他部門との連携なしには研究が進みません。今回、実験に使用した魚も岩内漁業協同組合の協力によって得られたものですが、今後も各方面との連携や協力をいただきながら、浜の問題に対応できる研究を行っていきたいと考えています。

  なお、残る2つの大型水槽については紙面を改めてご紹介します。(中央水試 水産工学室 今井義弘)