水産研究本部

試験研究は今 No.454「耳石日周輪解析で明らかとなった石狩湾ニシンの特徴 - 仔稚魚の孵化日 -」(2001年8月10日)

耳石日周輪解析で明らかとなった石狩湾ニシンの特徴(1) - 仔稚魚の孵化日 -

はじめに

  石狩湾周辺には石狩湾ニシンと呼ばれるニシンが毎年2~4月に産卵のためにやってきて、この地域の貴重な漁業資源となっています。

  これまで、石狩湾ニシン仔稚魚に関する知見はほとんどなかったのですが、近年、中央水試資源増殖部が中心となりニシン仔稚魚の生態調査が実施されるようになりました。その結果、5月下旬~6月上旬にかけて産卵場近くのコタン港付近(図1 St.A)で全長20-36ミリメートルの仔魚、6月下旬頃には石狩川河口近くの砂浜域(St.B)や7月上旬~下旬にかけて石狩川河口(St.C)では、それぞれ全長35-53ミリメートル、51-70ミリメートルの大きさの稚魚が出現することが明らかとなりました。採集された仔稚魚は、どのような成長をしているのか、何を食べているのか、どういった環境(水温や塩分)に生息しているのかなど、さまざまな角度から研究が進められています。

  今回は、そのうちの一つである仔稚魚の耳石日周輪解析によって推定された孵化日を中心に、石狩湾ニシンの仔稚魚の特徴についてお知らせしたいと思います。
    • 図1
      図1 調査海域図

耳石日周輪とは?

  耳石は、1年に1本の年輪が形成されることがよく知られていますが、仔稚魚期には、1日1本の日周輪が観察されます。石狩湾ニシンを含む太平洋ニシンの場合、孵化時には耳石中心から約10マイクロメーター(1000分の10ミリメートル)付近に太く鮮明な輪紋が形成されます。これは孵化時に形成されることから孵化輪(図2)とよばれています。したがって、孵化輪の外側に形成された日周輪の本数を数えることで孵化してからの日数(日令)が分かり、採集された日(死んで日周輪の形成が止まった日)から日令分さかのぼると孵化日を知ることが出来ます。また、全長が大きくなると、ある一定の関係をもって耳石も大きくなります。この関係を用いると、耳石の中心から各日周輪までの長さを測定することで、孵化後何日目には全長何ミリであったかを推定することができます。
    • 図2
      図2 1999年6月にコタン港で採集されたニシン仔魚の耳石(全長28.8ミリメートル、孵化後32日)

石狩湾ニシンの仔稚魚は孵化日はいつごろ?

  まず、1999年に採集されたニシン仔稚魚の孵化日組成をざっとみてみますと、4月上中旬と4月下旬から5月上旬に孵化した二つの群がいたことが分かります(図3)。中央水試増殖部の潜水調査により、この年に厚田周辺海域に産卵された卵は4月上旬と5月上旬に孵化したことが確かめられています。これら2つの結果はよく一致することから、採集された仔稚魚は厚田周辺で生まれたものと考えられます。また、この海域のニシン産卵群日別漁獲量の推移から、産卵親魚の来遊には2月下旬と3月中旬にはっきりとした二つピークがみられたこと、また、産卵群は、前半には主に3歳魚、後半には2歳魚であったことがわかっています。これらのことから、前期孵化群は3歳、後期孵化群は2歳魚が産んだ卵由来の仔稚魚であろうと考えられます。

  次に、もう少し詳しく孵化日組成の移り変わりをみてみます。産卵場近くのSt.Aでは、6月11日に前期、後期の2群がみられました。一方、St.Bでは、6月24日に前期孵化群のみが出現していましたが、7月2日、7月8日には後期孵化群に移り変わりました。また、St.Cでは、St.Bで後期孵化群が分布していたと思われる7月8日には前期孵化群が大部分を占め、7月13日になると前期・後期の2群がみられました。これらの結果は、厚田周辺で孵化したニシンは、成長に伴い、石狩川周辺の砂浜域(St.B)、石狩川河口域(St.C)の順に移動していることを示しています。そして、孵化時期の違う2つの群がいずれも、少なくとも全長50~70ミリメートルまで順調に成長し、石狩川周辺で同じ移動パターンをみせたことは、石狩湾ニシン稚魚と石狩川との深い関わりを意識せざるを得ません。また、石狩湾ニシン全体像の解明はまだこれからといったところですが、産卵親魚の来遊・産卵、孵化から仔稚魚の移動まで、再生産の場の様子がおぼろげながら見えてきました。
    • 図3 石狩湾で採集されたニシン仔稚魚の全長組成と孵化日組成

次の目標

  先に述べましたように、耳石日周輪は孵化日だけでなく、同時に個体毎の成長に関する情報も私たちに教えてくれます。これについては、仔稚魚の成長に関して興味深い結果が得られているので、機会をみてご報告したいと思います。

  また、仔稚魚期に形成された耳石日周輪構造は、2歳以上の産卵親魚の耳石にも確実に残されています。産卵回帰したニシンについて個体毎に調べることで、もっとも減耗の激しい仔稚魚期にどのような成長をしてきたかを知ることができ、そのようなニシンはどのようにして生き延びてきたかを推察することが可能です。現在、私たちはこの作業を進めており、仔稚魚の成長の特徴と比較することで、親まで生き残る個体の成長パターンを明らかにしたいと考えています。
(釧路水産試験場 資源管理部 資源管理科 石田良太郎)