水産研究本部

試験研究は今 No.456「アカガレイの刺し網の網目選択性試験」(2001年8月24日)

「アカガレイの刺し網の網目選択性試験」

はじめに

  道南太平洋のアカガレイ資源は噴火湾に分布の中心を持っています。漁獲量は、1985年以降では1987年に3,491トンと最高を記録しましたが、そのわずか3年後に695トン(1990年)と最低となりました。その後、1991年以降は増加傾向を示し、1996年には2,738トンまで回復してきましたが、それ以降は再び減少傾向となっています。本種の漁獲量の97パーセントは刺網によるものですが、噴火湾内の刺網許可件数は1,000件近くにも達し、漁獲努力量の過剰が懸念されています。このような背景の中で1999年より複合的資源管理型漁業促進対策事業が始まり、このなかで本種が対象種として取り上げられ、資源状態の把握や合理的な資源の利用を図るための方策が検討されています。ここではその方策の一環として実施した刺し網の網目選択性試験の結果について報告します。

調査の方法

  刺網の目合選択性試験を、有珠漁協所属の刺網船を使って、有珠沖のアカガレイ漁場(水深70~90メートル)にて、2000年12月~2001年3月の間に計3回実施しました。使用した目合は4種類(3.5寸、3.8寸、4.0寸、4.5寸)です。各目合を4反ずつ、3.5寸-4.0寸-3.8寸-4.5寸の順に連結し、これを1建てとし、2建てを連結して試験網としました。魚体の測定部位は、性別・全長・体重・熟度生殖巣重量などです。

調査の結果

(1)漁獲尾数(図1)
  • 全漁獲尾数(24反分)は、3.5寸では380尾(雄305尾:雌75尾)、3.8寸で219尾(同165尾:53尾)、4.0寸で131尾(同96尾:35尾)、4.5寸で32尾(同13尾:19尾)となり、目合が大きくなるにつれ急激に減少しました。4.5寸を除き、大部分は雄で占められていましたが目合が大きくなるにつれ雌の比率が高まりました。
  • 雄では全長22センチメートル以上を成魚とすると、3.5寸から4.5寸まで約90パーセント以上は成魚で占められており、雄の漁獲尾数の減少はこの成魚部分の減少によるものでした。
  • 雌では全長28センチメートル以上を成魚、同未満を未成魚としました。その結果、未成魚は3.5寸で52尾、3.8寸で20尾、4.0寸で7尾、4.5寸で2尾と目合が大きくなるにつれ急激に減少しました。成魚は、3.5寸で23尾、3.8寸で33尾、4.0寸で28尾、4.5寸で17尾と、3.5~4.0寸では大きな変化はみられず、むしろ目合が大きい方がやや増加しましたが、4.5寸では急減しました。
    • 図1 網目別の漁獲尾数
(2)全長組成(図2)
  • 全長組成の最大のモードは、3.5寸、3.8寸および4.0寸とも全長24~25センチメートルでほぼ同様でした。次のモードは、3.5寸ではみられませんが、3.8寸および4.0寸では28~29センチメートルにみられました。4.5寸では特にモードとなる部分はみられませんでした。
    • 図2 網目別の全長組成
(3)網目選択性曲線(図3)
  • 網目別漁獲尾数をもとに網目選択性曲線(石田の方法)を推定しました。雌雄で肥満度に大きな差異がなかったため雌雄混みで推定しました。
  • 各目合とも、大型および小型の2つのモードをもつ複峰型の曲線(分布型)となり、目合いが大きくなるにつれ、適応する全長も大型に移行し、選択性が認められました。
  • 各目合に適応する全長(小型峰、大型峰および合成峰平均値)は、3.5寸では27.3センチメートル、30.9センチメートルおよび28.4センチメートル、3.8寸では29.6センチメートル、33.6センチメートルおよび30.9センチメートル、4.0寸では31.2センチメートル、35.3センチメートルおよび32.5センチメートル、4.5寸では35.1センチメートル、39.7センチメートルおよび36.5センチメートルでした。
    • 図3 網目別の選択性曲線
まとめ
  • 目合が大きくなるにつれ、その適応全長も大きくなり網目選択性が認められました。漁獲物でも副モードの出現により組成がやや大型に移行しました。しかし、目合が4.0寸以下では、最大モードに大きな変化はみられず、目合の適応全長と漁獲物組成とは必ずしも一致していませんでした。これは資源の全長組成を反映したためと思われました。
  • 目合を大きくするにつれ、(雌の方が成長が良いためか)雌の比率が相対的に高まりましたが、雌の尾数自体も減少しました。特に、この減少が未成魚部分の減少によるものであり、産卵親魚の確保に目合の拡大は有効と判断されました。雄についても大部分は成魚ながら、目合の拡大は小型部分が減少することにより資源の保護や平均単価の向上に有効と判断されました。ただし、4.5寸では漁獲尾数が極めて少なく経営上の問題が懸念されました。これは4.5寸の適応全長付近では成長が頭打ちとなり、かなり(適応)年齢が高齢化してしまうためではと思われました。

最後に

  噴火湾のアカガレイ漁業は、その漁獲物の年齢組成からみて、ほとんどは卓越年級群で支えられています。逆にみると卓越群以外の年級群は極めてその豊度が低く、産卵親魚もこの卓越群に依存している思われます。また、卵の採集調査においてもアカガレイ卵がほとんど採集されず、親魚がいなかったと推定される年(1992・1993年)もみられています。このように、この海域の産卵親魚量はかなり少なく、その推移も不安定な状態にあると思われます。従って、漁獲量・漁獲金額などからみた管理方策の検討も必要ですが、当面は産卵親魚量を少しでも確保し、卓越群の発生の可能性を向上し、漁獲物の複数年級化を図ることにより資源の安定化を目指すといった資源的な基盤作りが必要と思われます。そのため、現状の3.5寸から3.8寸あるいは4.0寸への目合の拡大は有効な手段になりうると思われます。
(函館水産試験場 資源管理部 國廣靖志)