水産研究本部

試験研究は今 No.460「有珠山噴火による洞爺湖の湖沼環境への影響」(2001年10月24日)

「有珠山噴火による洞爺湖の湖沼環境への影響」

はじめに

  洞爺湖は、支笏・洞爺国立公園内にあり、国内で6番目の大きさと深さのカルデラ湖です。最大水深は調査地点のSta.1(図1)で179メートルと言われています。湖沼型としては貧栄養湖で、北限の不凍湖とされています。また、有珠山の噴火に関しては、2000年以前、最近ものは1977~1978年の噴火があり、このとき洞爺湖には大量の火山灰が降下し、今回の噴火と状況が異なっていました(今田、2000;宇井、2000)。 

  洞爺湖の調査の歴史については古く、1902年の海軍水路部の測深に始まり、現在まで、水質、周辺地質、生物相など広範囲に及ぶ調査が行われています。

  北海道立水産孵化場では、湖沼環境と漁業生産の関連について調べるために、洞爺湖について水質調査を実施しています。また、漁業資源量の推定の基礎となることから、植物プランクトンによる有機物の生産能力の指標である一次生産に関しても調査をしています。ここでは、2000年の有珠山噴火後と、1991~1993年に測定されたデータ-を比較しながら、噴火後の洞爺湖の状況について説明します。

方法

  湖水の調査は、湖深部Sta.1(図1)で、0~60メートルまでのCOD、水温、溶存酸素、懸濁物質量、ペーハー、無機イオン類、アンモニア態窒素などの栄養塩類、ケイ酸等を測定しました。また、「日本気象協会(1990)海洋観測指針、252-256」に従って、植物プランクトンの一次生産量の測定も行いました。
    • 図1
      図1 調査地点

結果

  水質調査結果からは、湖水に濁りが認められました、表層付近では、非常に薄い濁りによる透明度の低下が起こり、底層(160メートル)においては、2000年6月の調査時点で縣濁物質量13mgl-1という白濁が認められました。これらは、主に2000年4月9日に起こった噴火口からの泥流の影響と考られています。表層付近の濁りは2000年12月の調査時点では回復がみられ、底層(160メートル)の濁りは、2001年3月には消失していました。また、全窒素は2000年8月に、ケイ酸は2000年12月に従来の数値と比較して、高い値が出ました。これは噴火の影響かどうかはわからないのですが、全窒素は2000年9月、ケイ酸は2001年6月の調査で、従来と変わらなくなっています。

  次に、一次生産量を表1に示しました。一次生産量の表示については、湖面積1平方メートル当たり(水柱といいます)、光合成で作られる有機物中の炭素量をgで表したものです。2000年の数値については、0.06~0.22gCm-2day-1、噴火前の1991-1993年の数値0.04~0.21gCm-2day-1で、調査時期を考慮すると、とくに大きな変化はありませんでした。
    • 表1
表1 洞爺湖の一次生産量(gCm-2day-1

まとめ

  噴火の影響と考えられる懸濁物質量、噴火の影響かどうかは不明な全窒素及びケイ酸の濃度の一時的な上昇があった他、噴火後の変化は認められませんでした。しかし、今後、降雨時の噴火口付近からの土砂流入や降灰が、湖沼環境へ影響を及ぼす可能性もあり、引き続き洞爺湖の生物的、化学的な調査を続けることが必要と考えられます。なお、詳細については「有珠山噴火に伴う環境と生物資源の変動に関する学術的プロジェクト研究 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター(平成12年度教育改善推進費研究成果報告書)」にも記載してます。

今田和史(2000)洞爺湖の水質環境と漁業の変遷.国立環境研究所研究報告、135:83-97
宇井忠英(2000)有珠山2000年噴火の推移.日本火山学会策7回公開講座、1-4

(北海道立水産孵化場病理環境部水域環境科 安富亮平)