水産研究本部

試験研究は今 No.463「潜砂行動からみたハタハタ種苗の放流条件」(2001年12月11日)

潜砂行動からみたハタハタ種苗の放流条件

  ハタハタは本道太平洋岸や北部日本海において、重要な漁業資源であり、各地で人工種苗の放流が行われています。秋田県の放流試験によると、人工種苗の被食率は天然の稚魚に比べて高いことや、放流種苗が親魚に成長して、漁獲に添加する割合は、0.1パーセントと極めて低いことなどが報告されています。放流効果を上げるためには、適正な放流サイズと放流適地の選定が重要ですが、ハタハタのこれらに関する知見はほとんどありません。

  一方、ハタハタは海底に潜って生活しており、その形態もまた、鱗がないことや、口と目が背面上に位置するなど、潜砂に適応しています。そこで、ハタハタの潜砂行動に着目して、潜砂条件と人工種苗の放流サイズや放流海域の底質粒径について検討しました。

潜砂の日周期性

  ハタハタ種苗はどのような条件のもとで潜砂するのかを2回の試験から調べました。1回目の試験では、平均全長62ミリメートルの種苗を用いて、粒径0.5ミリメートル以下の砂に対する潜砂率を1昼夜にわたって調べました(図1)。

  これによると、日中は40パーセント以上の潜砂率でしたが、日没前後から潜砂率が急に低下し、夜間はほとんどの個体が砂から出て、活発に遊泳していました。その後、日出前から再び潜砂率が高くなり、10時以降には前日の日中よりも高い割合で潜砂していました。

  2回目の試験では、最初の試験と同様の水槽を2つ用意し、一方の水槽には全長150ミリメートルのマダラを1尾入れました(図2)。マダラありの水槽では、マダラなしの水槽に比べて、約1時間遅れで潜砂率が低下していきました。このサイズのマダラはハタハタ種苗を捕食できませんが、ハタハタ種苗が日没後に砂から出て遊泳するまでに時間を要したのは、マダラを警戒したためと考えられます。

  これらのことから、ハタハタは夜行性であり、被食を免れるための逃避行動がハタハタの潜砂条件の一つと考えられます。このため、種苗放流は潜砂を前提として、放流海域や放流サイズを決定する必要があると思います。また、夜間に活発に活動するハタハタの習性を考慮すると、日中の放流では被食され易いことが考えられ、安全な場所へ速やかに移動させるには、夜間に放流するのがよいと思われます。
    • 図1、2

放流サイズと放流海域の底質粒径

  5種類の粒径の砂と礫に対する潜砂率を種苗の全長グループ別に比較しました(図3)。どの全長グループも粒径2~4ミリメートルの礫に対しては、潜ることはできませんでした。粒径1ミリメートル以下の砂に対しては、最小サイズである全長10ミリメートルグループでは、どの粒径の砂に対しても、潜砂することはありませんでした。全長20ミリメートルグループでは粒径0.1ミリメートル以下に対してだけ潜砂がみられ、全長30ミリメートルグループでも粒径0.1ミリメートルと0.1~0.25ミリメートルの2種類の砂に対して潜砂しましたが、その割合は低いものでした。これらに対して、全長40ミリメートルグループと50ミリメートルグループでは、粒径0.5ミリメートル未満の砂に対して、35パーセント以上の高い潜砂率を示しました。粒径0.5~1.0ミリメートルの砂に対しては、全長40ミリメートルグループでは潜砂することができず、全長50ミリメートルグループでも16パーセントでした。

  砂の粒径に対する選択性を検討するため、2種類の粒径の砂を交互に敷き詰めた水槽に平均全長62ミリメートルの稚魚を収容し、4時間後の潜砂率を調べました(図4)。潜砂個体の比率は、どの粒径の組合せでも常に小粒径の砂の方が高くなりました。とりわけ、粒径0.1ミリメートル以下の砂に対しては約50パーセントが潜砂しました。

  ハタハタ種苗の潜砂能力は全長の増加にともなって高くなりますが、ハタハタ種苗は常に小粒径の砂を択し、その潜砂率は砂の粒径が0.5ミリメートル以上になると急激に低下します。これらのことから、放流海域の底質粒径は小さい方がよく、その粒径は0.5ミリメートル未満の場所がよいと思います。また、底質粒径が0.5ミリメートル未満であっても、潜砂率は種苗の全長が30ミリメートル以下では低いため、全長40ミリメートル台で放流するのがよいと思います。しかし、現状の放流時期は放流海域の水温との関係で決められているので、放流種苗のサイズを大型化するためには、飼育技術の改良や早期採卵などの新たな技術開発が必要になります。
(栽培センター魚類部 横山信一)
    • 図3、4