水産研究本部

試験研究は今 No.464「室蘭沖のケガニの深浅移動」(2001年12月25日)

室蘭沖のケガニの深浅移動

はじめに

  噴火湾周辺海域のケガニ漁業は、資源の著しい減少のため、現在は許容漁獲量制度のもとで試験的に行われています。許容漁獲量を設定するためには、的確な資源調査を行い、精度の高い資源量を推定する必要があります。しかし、実際には資源調査や資源量計算を行う上で様々な問題点があり、必ずしも高い精度で資源量を推定できているわけではありません。これらの問題点の1つとして、ケガニの分布・移動が分かっていないことが挙げられます。分布・移動が詳細に分かれば、どの時期に、どの場所(水深)で調査をすればよいのかが、はっきりします。これまでの水産試験場の調査から、噴火湾周辺海域のケガニは秋季に津軽暖流水を避け沖合域へ分布することや、雄は水平的な移動をあまりしないが、雌は比較的広範囲に水平移動することなどが分かってきました。しかし、ケガニは季節ごとに、どの水深帯に多く分布しているかといったことについては、分かっておりません。そこで、函館水産試験場室蘭支場では月別に水深別の分布調査を行いましたので、その結果について紹介します。

調査方法

  1999年3月~2001年3月の間に1ヵ月~3ヵ月おきに合計15回、室蘭漁協所属けがにかご漁船のご協力により分布調査を行いました。調査場所は室蘭市イタンキ沖の水深20、40、60、80、90、100、120及び140メートルで、各調査はその内の5点で行いました(図1)。漁具にはかにかご200個を用い、1昼夜海底に沈めてケガニを漁獲しました。調査場所ごとに、雌雄別の漁獲尾数を数え、甲長を測定しました。また、各調査場所ではメモリーSTDを用いて表層から海底近くまでの水温と塩分を観測しました。

調査結果

  全ての調査を通して、雄は合計4,145尾、雌は合計2,325尾が漁獲されました。漁獲物の甲長は雄が35~110ミリメートル、雌が35~95ミリメートルで、全て成体でした。何月にどの水深でケガニが多く漁獲されたかについて、各水深での1かご当たりの漁獲尾数(CPUE;以下漁獲尾数)から見てみました(図2)。雄の漁獲尾数が多い水深は、1999年3~5月には40~60メートルでしたが、その後徐々に深みに移り、9月、10月には約120メートルに達しました。12月になると水深80メートルで、2000年1~4月は更に浅みの水深20~40メートルで漁獲尾数が多くなっていました。その後、9月に水深120メートルで、3月に水深40~60メートルで漁獲尾数が多くなっています。雌では、漁獲尾数が少ない月もありますが、全体的な傾向は雄に似ており、9月、10月に水深100 メートルで、4月に水深20メートル台で漁獲尾数が多くなっていました。従って、室蘭沖のケガニは夏~秋に深みに多く分布し、冬~春に浅みに多く分布すると考えられます。
    • 図1 1999年3月~2001年3月に室蘭沖で実施したケガニ分布調査場所
    • 図2 室蘭沖のケガニの月別・水温別分布
  ケガニが漁獲された調査場所における底層水温は2.9~11.7度の範囲で、雄は水温3~6度、雌は水温3~10度の調査場所での漁獲が多いようです。次に、各調査時に観測した水温から、室蘭沖の水深140 メートル以浅における底層水温の季節的な変化を見てみましょう(図3)。室蘭沖の底層水温は、6月以降上昇し9月に最も高く、10月以降再び低下し、1~4月は6度以下になっています。ケガニの分布水深と底層水温の関係をみると、水温が上昇すると深みでの分布が多くなり、水温が低下すると水深20~60メートルの浅みでの分布が多くなる傾向がみられました。以上の結果から、室蘭沖の底層水温は周期的に上昇と低下を繰り返しており、それに伴ってケガニも周期的に深浅移動をしていると考えられます。現在、噴火湾周辺海域のケガニ資源調査は3月に行っています。今回の結果から、3月はケガニが浅みに密集しており、資源量を把握しやすい時期だと言えます。また、資源調査を行っている水深は20~100メートルであり、ケガニの分布の中心を含むことから、問題ないと判断されました。
    • 図3 室蘭沖の月別・水温別の底層水温

調査結果

  ケガニが深浅移動する理由として、水温の影響を述べてきましたが、冬~春に浅みに多く分布することについては水温だけでは説明できません。ケガニは脱皮期、索餌期(餌を多く食べる時期)、交尾期、産卵期、幼生のふ出期といった生活周期の変化に伴って、分布する場所も変えていると思われます。今後は生活周期の変化と分布の関係を調べていく必要があります。
(函館水試室蘭支場 三原栄次)