水産研究本部

試験研究は今 No.466「カラフトマスの付加価値向上に向けて」(2002年1月25日)

カラフトマスの付加価値向上に向けて

はじめに

  全道のカラフトマスの生産量はここ数年約1~2万トンで、このうち5~7割が網走支庁管内で水揚げされています。カラフトマスの産地価格は、近年、秋サケが前期来遊群主体に変わりカラフトマスと秋サケの漁獲が重なるようになってきていることや、輸入水産物の増加、バブル景気崩壊後の価格破壊などの影響を受け、全道的に低迷しています。また、カラフトマスの加工に関する知見は極めて少なく、特長を生かした加工技術が確立されていないことも価格低迷の一因と考えられます。

  こうした背景から、北見サケ・マス増殖協会は平成9年にカラフトマスの愛称を一般公募し、「オホーツクサーモン」としてイメージアップと消費拡大に取り組みました。また、網走支庁は「カラフトマスの販路拡大事業」(平成9年)や「旬のオホーツクサーモン魚食普及促進事業」(平成13年)を展開しています。これら官民の取り組みを技術的な面から支援するために、網走水試紋別支場では平成10~12年に「カラフトマスの付加価値向上試験」に取り組み、原料特性調査を行うとともに、カラフトマスの特長を生かした加工製品・素材の開発を行いました。試験結果の概要は以下の通りです。

試験の結果

1.カラフトマスの水分は漁期初めの7月下旬から終わりの9月中旬にかけて2~3%増加、粗脂肪は約1~2%減少しました(図1、2)。なお、これらの成分は、雌雄および魚体の大きさによる明らかな差がみられませんでした。
    • 図1
      図1 カラフトマスの水分
    • 図2 カラフトマスの粗脂肪
2.主な遊離アミノ酸はアンセリン、ヒスチジン、グルタミン酸、アラニン、タウリンでシロサケに類似した組成を示しました。しかし、シロサケに比べアンセリンが少ない結果でした。主な脂肪酸はパルミチン酸、オレイン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)で、シロサケと類似した組成を示しました(図3、4)。
    • 図3 カラフトマスの遊離アミノ酸組成(99年)
    • 図4 カラフトマスの全脂質脂肪酸組成(99年)
3.カラフトマスは成分的にシロサケと類似しており、原料としてみた場合、シロサケとほぼ同等に利用・加工が可能と考えられました。

4.カラフトマスの特徴は漁期を通じて赤い肉色を保持していることで(図5)、これを生かした加工品としては、トバ、冷凍すり身、超高圧ハム等が適していると考えられました。
    • 図5 カラフトマスの赤色度(a値)
5.現在、カラフトマスの冷凍すり身を利用した揚げかまぼこ製品について商品化を進めています(写真1)。また、超高圧ハムの製造方法について「サケ・マス肉を用いたハム様食品の製造方法」として、特許申請(特願 2001-233449)を行っています。
    • 写真1(左:油ちょう後 右:油ちょう前)

おわりに

  カラフトマスは満2年で成熟するという生態的特性をもっているため、米国では効率の良い増殖事業として積極的に取り組まれている魚種です。本道で放流されているカラフトマスはシロサケの1割程度ですが、将来的に、「ポスト・サケ」として増殖事業が発展していく可能性も考えられます。今後もカラフトマスの付加価値向上と販路拡大を図っていくことは、重要な意義があると考えられます。
(網走水産試験場紋別支場 成田 正直)