水産研究本部

試験研究は今 No.467「ホッキガイ生息環境調査~水産工学的アプローチ~」(2002年2月8日)

ホッキガイ生息環境調査 ~水産工学的アプローチ~

  現在、水産工学室では中央水産試験場の所在する余市町の前浜で、ホッキガイ資源の回復に向けた生息環境調査を行っています。これまで底質分析や稚貝の生息状況調査、水温、塩分計測などを行い、データを蓄積しているところです。

  さて、このような調査・研究を進めるときに重要となってくるのが、海の物理環境を把握することです。

  波の力は、砂の中に潜って生活するホッキガイを砂の中から掘り出し、これらが岸に打ち上げられて資源が減少する主な原因とされています。そこで、ホッキガイが漁場の中でどのような波の力を受けているかを調べることによって、資源回復への様々な対策を考えることができます。

  波の力を調べるには、計測機器を用いて実測するのが一番ですが、この広い海ではなかなか難しいことです。そこで私たちが用いているのがパソコンを使ったシミュレーションという方法です。これにより広い範囲の波の状態が計算でき、この結果を用いて生物に作用する水の力を計算します。

  今回は、余市前浜での波の高さを、エネルギー平衡方程式という手法を用いて計算した結果について、いくつか紹介したいと思います。

  下の図は、積丹半島神威岬から余市町前浜までを計算した結果です。白い部分が陸地を示し、海の部分は波の高さを赤(波高さ大)~青(小)の色で表しています。計算の都合上、陸の形状を若干変えています。

  計算の元となる波は、2000年8月の平均で、277度の方向(西)から来襲し(緑の矢印の向き)、矢印の付近で0.31メートルの有義波高(波の分布のうち大きいほうから1/3の平均)があります(北海道開発局小樽開発建設部小樽港湾建設事務所観測資料)。
    • 図
  この波の向きでは積丹半島積丹岬が影になり、余市の前浜では波の高さが小さく、穏やかになっているのがわかります。具体的には余市前浜での波の高さは有義波高で0.1メートル以下となりました。

  次の図は、同じ海域で、2001年1月の平均の場合で、波は316度の方向(北西)から来襲し(緑の矢印の向き)、矢印の付近で1.37メートルの有義波高があります(同観測資料)。
    • 図
  この波の向きでは、余市前浜まではシリパ岬が若干影になる程度で、積丹岬の影響は前例よりも少なく、余市の前浜は波当たりが強くなっている(黄色~橙色)ことがわかります。具体的には余市前浜での波の高さは有義波高で0.7~1メートルとなりました。

  二つの例から、同じ場所でも元となる沖での波の高さ、向きおよび来襲する方向の地形により、目的とする場所での波当たりが大きく変わることがわかりました。

  ちなみに下の写真は2002年1月28日の水試からみた余市前浜の様子です。二つ目の例に近い状況と考えられます。
    • 写真1
  今後は、波の高さの分布から海底での水の動く速さを計算し、さらにこの速さと砂の動きの関係から、この海域が物理的にホッキガイの生息に適した環境であるかを検討してゆきたいと考えています。
(中央水産試験場 水産工学室 金田友紀)