水産研究本部

試験研究は今 No.471「放流したニシンの混入率は1歳までに決まる~-2002年漁期,厚田港における人工種苗ニ シンの混入率調査から-」(2002年4月17日)

試験研究は今 No.471「放流したニシンの混入率は1歳までに決まる?-2002年漁期,厚田港における人工種苗ニ シンの混入率調査から-」(2002年4月17日)

放流したニシンの混入率は1歳までに決まる? -2002年漁期、厚田港における人工種苗ニシンの混入率調査から—

今回の調査結果から

  • 厚田港で2002年漁期に水揚げされた天然ニシンに混じる人工種苗の割合(混入率または混獲率)は、1999年級が1.00パーセント、2000年級が5.81%と、年級間に顕著な差が見られた。
  • 一方、これまでに調べた混入率のデータを、同一放流年級の年齢間で比べてみたところ、1998年級は1歳以降に、また1999年級は少なくとも2歳以降に違いが無かった。
  • 今後の調査で検証するべき作業仮説の1つとして、「放流ニシンの混入率は1歳までに決まる」という仮説を提案した。
石狩管内厚田村では、今年の1月下旬に始まったニシン漁が、4月上旬に終了しました。中央水試と石狩地区水産技術普及指導所では、市場に水揚げされたニシンに占める人工種苗ニシンの混入率を、1998年から調べています。今回は2002年漁期(1月下旬~4月上旬)の7回の調査で得た結果の一部を紹介します。
調査では市場で購入したニシンを研究室へ持ち帰り、頭骨内部から注意深く耳石を取り出し、それを顕微鏡下(100倍)で観察します(下図、左)。この時、耳石表面に強い蛍光を照射すると、写真(下図、右)のように、中心域が赤く発色する耳石が見つかることがあります。これが人工種苗ニシンを表す“印”です。実は、すべての人工種苗ニシンには放流する前にあらかじめ、耳石にALC(アリザリンコンプレクソン)という“蛍光標識”を付けています。そうすることで、天然で発生したニシンと人工種苗ニシンを確実に識別することができます。
  では、さっそく厚田市場に水揚げされたニシンの混入率を見てみましょう(表1)。人工種苗ニシンの混入率は1999年級で1.00パーセント、2000年級で5.81パーセントと、前者に比べて後者は約6倍高い値を示しました。
    • 表1
  どうして両年級の混入率にこのような大きな違いが生じたのでしょうか?混入率は“放流した人工種苗の生残数”を、“天然ニシンと人工種苗の合計生残数”で割った値です。厚田では人工種苗ニシンの当歳魚(0歳魚)を、1999年に39万尾、2000年に19.7万尾放流していましたが、調査時点での生残尾数はわかっていません。また天然ニシンの生残尾数も不明です。そこで混入率に違いを生じた原因の糸口を見つけるために、ちょっと大胆な仮定を立ててみたいと思います。
  仮定1:当歳で放流後、漁獲が始まる2歳までの生残率は、放流年級間で差が無い。つまり年級間の放流尾数の比は、そのまま加入時(2歳)にも維持される。
  仮定2:人工種苗ニシンの混入率は、ある年齢以降は変化しない。つまり人工種苗ニシンと天然ニシンの生残率には、ある年齢以降、差が無い。
  つまり天然ニシンが初期減耗過程を経て生残率が安定した時点で、人工種苗ニシンの混入率が安定する、という仮定を立てておきます。

  さて、1999年級と2000年級の放流群について、これらの仮定がもし成り立つとすれば、仮定1から、2歳時の人工種苗ニシンの相対豊度は、1999年級:2000年級=39万尾:19.7万尾≒2:1。また仮定2のように混入率がある年齢(ここでは2歳)以降変化しないとすると、1999年級:2000年級=1.00%:5.81%≒1:6となります。そこで1999年級の天然ニシンの発生豊度が、2000年級の約12倍あったと想定すれば、混入率が数分の1となったことの説明がつきます。

  それでは果たして、この説明は正しいのか?それは、この2つの仮定を検証することで、その妥当性を判定できます。仮定1の検証は別の機会に譲ることにし、ここでは同一年級の混入率はある年齢以降変化しない、という仮定2を、これまでの調査データから検証してみます。

  表2は1998年級と1999年級の人工種苗ニシンの年齢別混入率を示しています。1998年級では1歳と3歳の間に、また1999年級では2歳と3歳の間に混入率に有意な差が無く、1998、1999年級について仮定2が成立することがわかりました。もし人工種苗と天然の両者間で生残率が異なれば、混入率に変化が生じてくるはずです。従って、表2は、厚田で放流した人工種苗ニシンは、少なくとも満1歳になる放流翌年の春以降に、天然ニシンと同程度の生残率を持つことを強く示唆しています。今後、仮定2を作業仮説として、これが他の放流年級にも当てはまるかどうか、検討を加えたいと考えています。
(中央水試)石野 ・高畠・高柳・(石狩地区水産指導所)熊崎
    • 表2