水産研究本部

試験研究は今 No.472「バカガイ稚貝の発生に及ぼす水温と波浪の影響」(2002年4月26日)

バカガイ稚貝の発生に及ぼす水温と波浪の影響

はじめに

  桧山支庁沿岸におけるバカガイ資源は、1994~1996年ころ、1989、1990年に発生した卓越発生群の成長に伴いピークに達しました。しかしその後、資源量が急激に減少したため、近年多くの漁場で禁漁を余儀なくされています。この資源量の急激な減少の原因として、この間新たな卓越発生がなく、資源を支えていた1989、1990年級が寿命をむかえたことによると考えられます。

  函館水試では1990年から桧山沿岸におけるバカガイの試験研究を開始し、着底以降の稚貝~成貝を対象にした調査を行っています。この調査では、主に発生量(着底約2カ月後の稚貝密度)や着底以降、漁獲サイズとなる3~4齢までの、主に若齢期の成長と生残の実態を明らかにし、早い段階で資源量の変動予測を行い、添加量に見合った漁獲許容量を設定するなど、適切な資源管理を行うためのデータを得ることを目的としています。

  今回は、この目的の一部ですが、バカガイ稚貝の発生と環境要因との関係について紹介します。
 

稚貝の発生量(着底約2カ月後の稚貝の出現)

  現在、江差町と大成町のバカガイ漁場で、毎年着底後約2カ月の10月中~下旬に、スミス・マッキンタイヤ式採泥器(1/20平方メートル)を用い採取しています。

  1990年以降の平均稚貝密度は江差と大成でそれぞれ21、67個体/平方メートルですが、大成では2000年と2001年に200個体/平方メートルを超える密度で稚貝が出現し、江差でも1998、2000年に40個体/平方メートルを上まわる密度で稚貝がみられ(図1)、最近になってようやく稚貝の発生が比較的良好となってきました。そこで発生量に影響を及ぼすと考えられる要因のうち水温と波浪について次のように検討しました。
    • 図1

稚貝の発生に及ぼす水温と波浪の影響

  まず、データが蓄積されている水温と発生量との関係についての検討を行いました。その結果、着底時期の8月から採泥器調査の10月の間に、大時化があった1994年(台風通過)あるいは1999年(低気圧)年以外の年については、初期密度と水温との間に正の相関がみられました(図2)。これは、高水温により成長が促進された(図3)ことによって、生残が向上したと考えることもできそうです。
    • 図2
    • 図3
  次に波浪との関係について検討しました。ただし、両地区とも波浪の観測データはないため、アメダス資料の日最大風速をもとに海岸に垂直に向かう風速成分(江差:西成分、大成:南西成分)の2乗値を算出し、これを波浪の指標として用いました。

  その結果、初期密度と着底時期の8~9月の波浪の指標値との間に負の相関がみられました(図4)。
    • 表2
  ただし江差では、水温と波浪の指標値との間にも弱いながら負の相関がみられ、これは風あるいは波浪の影響が少ない年は水温が高くなることを示していると考えられました。江差の水温は江差港内の観測値であるため、この傾向が強い可能性があります。このように江差では、水温よりむしろ台風など大時化がなかった通常の年でも着底後の波浪の影響が着底後2カ月間の生残を左右していると考えられました。

  一方、大成では、水温と波浪の間には有意な相関はみられないため、高水温が前記のように発生にプラスに作用して、波浪がマイナスに作用している可能性があります。このように2地区で発生要因が異なる理由として、海岸線の向きや海岸地形などにより波浪の影響が違うことが考えられます。

最後に

   以上のように当年貝の発生量は、波浪や水温といった物理的な環境要因に左右されていると考えられました。ただし問題点として、大成のバカガイ漁場の海岸線は湾状を呈しており、地理的に複雑なため、波浪の指標として用いた値が実際の波浪と合っていない可能性もあり、今後の課題として残されています。これらの要因を人為的に改変することは難しいですが、稚貝調査を行わなくても着底初期の環境情報を収集するだけで、発生の規模や資源の変動をある程度予測できる可能性があり、今後も資料の蓄積を図っていこうと考えています。

  なお、この調査は桧山南部・北部地区水産技術普及指導所をはじめ、地元役場、ひやま漁協などの協力を得て行っています。今後ともよろしくお願いいたします。
(函館水産試験場 資源増殖部 高橋和寛)