水産研究本部

試験研究は今 No.476「つくり育てる漁業は豊かな餌づくりから 上」(2002年6月28日)

つくり育てる漁業は豊かな餌づくりから(上) -餌となる主な藻類の種類と特徴-

  つくり育てる漁業の発展により、現在では多くの魚貝類の放流や養殖が行われています。
  栽培漁業総合センターでは、その種(たね)ともいうべき種苗をつくる技術開発をしています。
  これまで扱った魚貝類を大別すると魚類(ヒラメ、マツカワ、クロソイ、ニシン等)、貝類(エゾアワビ、ホッキガイ、バカガイ等)、棘皮動物(エゾバフンウニ、マナマコ)および甲殻類(ケガニ、トヤマエビ等)があります。
  これらの種苗を陸上水槽で育てるには飼育中に餌を不足なく与えることが必要となります。餌の中でも微小藻類(単細胞性の植物プランクトンまたは群体をつくる付着性藻類)は多くの生物にとって欠くことのできないものとして利用されています。
   たとえば二枚貝の場合は、親、浮遊幼生、稚貝のすべての時期に微小藻類を餌としています。また、ウニやアワビの成貝にはコンブなどの海藻を餌としますが、浮遊幼生や着底後の仔稚期には微小藻類を与えます。
  与える藻類の種類は飼育生物の大きさや栄養要求に応じて異なります。 当センターで餌として現在使用している主な藻類は4種類であり、それぞれ藻独自の特徴を持っています。そのほかにも数種の藻類の株を保有しており、必要に応じて餌として増やしていくことができます。以下に、当センターで使用している主な4種類の藻類の特徴を紹介します。
写真1
Tetraselmis tetrathele(テトラセルミス・テトラセリ)プラシノ藻

  緑藻類に類似するが、鞭毛の表面に微細な鱗片状付着物があること、光合成産物としてマンニトールをつくり、ショ糖をつくる緑藻と区別されます。水温、塩分の変化に影響を受けにくく、極めて培養が容易な藻類であるため、通常、二枚貝の親飼育などに使用されます。細胞の直径が10~20ミクロン程と大型のため、幼生期~初期稚貝の餌としては不適です。
写真2
 Pavlova lutheri(パブロバ・ルセリ)ハプト藻

  細胞前端に2本の等長鞭毛と名前のもととなったハプトネマと呼ばれる長い鞭毛の合計3本を持っています。細胞の直径は5~7ミクロンと小型で、活発に遊泳します。増殖適温は20度前後です。EPA、DHAを含む餌料価値の高い藻類で、二枚貝の幼生期~成貝の餌として用いられています。通常3Lフラスコで培養していますが、100リットル水槽での培養が可能です。

写真3
Nannochloropsis oculata(ナンノクロロプシス・オキュラータ)真眼点藻

  通称、海産クロレラと呼ばれる藻類。細胞の直径は3~5ミクロンであり、大型水槽や屋外での培養も可能です。二枚貝の補助餌料や魚類の仔魚育成の際に飼育水安定のために用いられています。
写真4
Chaetoceros gracilis (キートセロス・グラシリス) 中心目珪藻

  細胞の直径は5~8ミクロンであり、餌料価値が高く、EPAを含む。ウニの浮遊幼生の餌として本道の種苗生産施設で広く培養されています。二枚貝の幼生~成貝の餌としても用いられます。


(栽培漁業総合センター 貝類部 多田 匡秀)