水産研究本部

試験研究は今 No.479「つくり育てる漁業は豊かな餌づくりから 下」(2002年7月25日)

つくり育てる漁業は豊かな餌づくりから (下) - キートセロスの培養について -

  全道のウニ種苗生産施設では稚ウニになる前の浮遊幼生の時期に、餌としてキートセロスを与えています。

  餌づくりは大きな労力のかかる作業のため、作業を軽減し、かつ効率的に餌料生産ができる方法が望まれています。

  技術的な課題としては、いかに藻の元株を純粋に保ち、必要時に大量培養できるかということが重要となります。

  藻は最小の細胞数から培養され、まとまった量の餌として使用できるまでには試験管(元株)→(100ミリリットルフラスコ→)300ミリリットルフラスコ→3リットルフラスコの植え継ぎを経るため、1ヶ月前から準備を始めなくてはいけません。

  藻をより効率的に培養するため、当センターでもいくつかの試験を行なっています。その中から、まず培養液に関する一例を紹介します。

  当センター、栽培漁業振興公社および道内のウニの種苗生産施設ではこれまでTKF(7種類の薬品と鶏糞抽出液を調合して作る)培養液を用いてキートセロスの培養を行ってきましたが、比較的安価に手にはいる市販培養液を利用して餌づくりができることもわかりました。従来から使用しているTKFと、市販のKW21(藻類用培養液)にメタ珪酸ナトリウムを加えたものを用いてキートセロスを培養し、細胞密度が3Lフラスコ内でどのように増加したかを観察しました(図1)。どちらも細胞数は培養日数が経過するにつれて指数的に増加していますが、TKFよりもKW21+珪酸ナトリウムのほうが早く増え、しかも最高到達密度が高くなりました。このことからKW21はキートセロスを培養することに適していると言えます。ただし、19日目には細胞数が減少していることから、増加後の定常期の安定性という面ではTKFに及ばないという特徴があるようです。
    • 図
      図1 異なる培養液と光質によるキートセロスの細胞密度の変化

      (奥村 1999)

  もう一つの例は、餌の大量培養の方法に関するものです。キートセロスは緑藻類などとくらべて大型容器での培養が難しいほうですが、当センターも参画した産官学の共同研究の成果を元に、500リットル規模の容器で自動培養できる方法が開発されました。しかし、その機械はまだかなり高価なため、種苗生産施設では3リットルフラスコで培養しており、より大型でかつ低コストの容器での培養方法が望まれています。そこで一見、原始的ですがビニル袋による培養法を紹介します。容積7.7Lの加圧滅菌できるビニル袋にキートセロスを植継ぎ,細胞密度の増加を観察しました(図2)。
    • 図
      図2 容器別、植継密度別のキートセロスの細胞密度の変化

      (酒井&多田 2001)

  同一条件での3リットルフラスコでの培養に比べて、ビニル袋での細胞の増え方は緩慢であり、最高到達密度も600万細胞/ml以下でした。容器が大きいと光の受け方や培養液の温度も変わるため、それぞれの容量に適合した条件設定が必要になります。現在実施している試験の結果では、温度と光強度を調節して800万細胞/ml以上に増やすことができそうです。

  今後取り上げていくべき課題は元株の保存方法についてです。これまで、拡大培養する前のキートセロスの元株保存は、有性生殖を促し、新世代をつくるために、温度や光環境に変化のある場所に静置するという経験的な方法でした。しかし、これらは不安定な環境下に置かれているため、植え継ぎのタイミングが遅れたり、株が汚損し枯死ししまうこともあります。

  今後は新たな世代をつくりやすい条件を明らかにし、確実な株管理をすることにより良質の株が確保でき,安定した餌づくりにつながるよう試験研究を進めていきたいと考えています。

(栽培漁業総合センター 貝類部 多田 匡秀)