水産研究本部

試験研究は今 No.481「2例の飼育実験から推定されるミズダコの成長について」(2002年8月23日)

2例の飼育実験から推定されるミズダコの成長について

  ミズダコの年齢と成長の関係については、未だ分からない点が多くあります。標識放流の結果などから、非常に成長の早い生物であることは推定されています。同じ頭足類であるイカ類には、平衡石という硬組織があり、それには輪紋が見られ、1日1本形成されることが知れられています(試験研究は今No.480参照)。ミズダコにも平衡石はありますが、その形質は白墨の粉を固めた様なもので、輪紋はみられませんでした。よって、平衡石によるミズダコの年齢推定はできないことが分かりました。ミズダコでは年齢を数えることのできる標示をもつ形質は、今のところ見つかっていません。年齢と成長の関係を知るための方法は他にもありますが、この度は2つの飼育実験の結果から、ミズダコの年齢と成長(体重)について考えてみました。

  まず1例目は、北海道礼文町アワビ種苗センターでの事例です。1997年5月14日から1998年7月6日までの1年2ケ月間飼育したもので、飼育当初体重4グラムであったのが754グラムにまで増重していました。室温で飼育し、餌はヤドカリ、ヨツハモガニ、小エビ類やアサリなどを、2~3日に1度与えていたそうです。ミズダコの体重は、月に1度測定され、そのデータを頂きました。なお、1998年7月6日の体重測定以降、このミズダコは、飼育水槽から逃亡を図り、消息不明になったそうです。

  2例目は、北海道立稚内水産試験場の飼育施設で実験した事例です。1999年10月18日から12月2日(死亡確認)までの1.5ケ月間飼育した例です。飼育開始時の体重は2,750グラム、死亡確認時の体重は4,194グラムでした。室温で飼育し、餌はホッケやスルメイカを丸のままで、3~4日おきに与えました。体重測定は給餌時に行い、データを収集しました。

  図1には、1例目の飼育実験で得られた飼育日数と体重の関係を示しました。これをみると、特に季節が初夏にあたる350日目からの成長は著しく早くなっていました。最も成長の遅い時期は、231日目から350日目であり、この頃は2月を挟む気温の低い時期でした。このことから、ミズダコも他の生物と同様に、環境水温による時期的な成長速度の違いがあるのではないかと考えられます。図中には、近似式を示し、ミズダコの成長式としました。

  図2には、2例目の飼育実験で得られた飼育日数と体重の関係を示しました。飼育日数が短期間であることにもより、成長量はほぼ直線的でした。ここでも近似式を求めて、成長式としました。
    • 図1,図2

  これら2例の成長式を基に、ミズダコのふ化時期と年齢成長の関係を推定してみました(表1)。
    • 表1
  まず1例目の成長式(Y1=7.1537exp0.0118X1:X=日数、Y=体重グラム)に着目しました。Xの値を-450日とすると体重は0.04グラムとなり、ふ化実験から得られている平均体重0.05グラムとほぼ同じになります。また、その時期も3月で、以前から推定されているふ化時期(日本海では2~3月)と一致していました。また、Xの値を518日とすると、10月18日には推定体重が3,221グラムとなり、この値はほぼ2例目の飼育開始体重(2,750グラム)に相当します。また、1例目の成長式で計算すると、満3歳で約20キログラムとなり、これが成熟する10月頃には196キログラムの巨大ダコとなってしまい、SFの世界に入ってしまいます。したがって、体重3キログラム前後からは2例目の様な成長に移るものとして、2例目で得られた成長式(Y2=31.529X2+2700.4)を使うこととし、体重3キログラム以上の成長を推定すると、3歳で7.5キログラムとなり、その10月には13キログラムに達します。これらをまとめると、ふ化時で0.04グラム、満1歳で3.7グラム、満2歳で281グラム、満3歳で7.5キログラムとなり3歳の9~10月頃には成熟サイズ(10キログラム以上)となります。これは、過去に報告されている未成熟期までの成長の知見よりも、遅い成長を示す結果となりましたが、成熟時期及びそのサイズについては、ほぼ一致しました。以上、少ないデータを基に、ミズダコの年齢と成長を推定してみました。ミズダコの場合、成長量の個体差が大きいことが、標識放流で知られています。実際、飼育してみると、餌付きが良く、食べた分だけ体重に還元されるような印象を受けたほどでした。道南でもミズダコは多く漁獲されています。今後は、餌の量による成長の違いなども考慮した実験を実施し、解析してみることが必要と思います。

(函館水産試験場資源管理部 三橋 正基)