水産研究本部

試験研究は今 No.483「漁具とは異なる採集具」(2002年9月27日)

漁具とは異なる採集具

はじめに

  漁業では大型の魚を選択的に漁獲し漁場も限定されてしまうため、そこから得られる情報は実際の資源量を反映するとは断言できません。このため、近年では、卵、仔稚魚の分布調査や漁期前の調査から正確な資源の情報を得る試みが重要視されています。こういった調査に用いられる道具は、一般に採集漁具あるいは採集具と呼ばれます。ここでは、採集具のうちトロールのように綱で網を曳く曳網採集具について紹介します。

採集具に求められること

図1 プランクトンネット(ノルパックネット)による卵およびプランクトンの採集
  曳網採集具といっても、プランクトンや卵の採集に用いられるプランクトンネットをはじめ、計量魚探によるスケトウダラ等の調査における魚種の確認の際に用いられるオッタートロール網といったように、その対象となる生物のサイズに応じて形や大きさは様々です(図1、2)。そして資源調査で用いられる採集具は商用漁具とは異なり、多く獲れば良いというわけではありません。採集具には、調査域に存在していた魚群の組成を正確に把握するといういわゆる定量性が要求されます。
図2
  しかし、魚は網の接近を感知して網を回避します。また、網内に入った魚でも使用する網地の網目に対して体が小さいと網目から逸出してしまいます。これらの現象により、採集される魚の種および体長の組成は偏ってしまうのです。ですから、魚の採集過程においては、網の前にいた魚が網口を通過する割合(入網率)と網目から逸出せず網内に残る割合(網内残存率)を把握しておく必要があります。さらに、卵仔稚魚調査では分布密度も正確に把握する必要がありますので、網が水を濾過した量を計測します。このような採集には網口面積が変化しないように網口が枠などで固定されている採集具が用いられます。
図3
  以上のことから、定量性の高い採集調査を行うには、対象とする生物の特性を知った上で、それに見合った採集具を用いる必要があります。魚類を例に成長段階とこれまでに用いられてきた代表的な採集具の定量性の関係について模式図にまとめてみました(図3)。この図からわかるように、卵仔魚の場合、逃避行動がほぼないので定量性が十分保証されますが、成長にともない定量性は低くなっていきます。また、濾水量を求めるために定型網口を備えた既存の採集具では規模が制限されるので、稚魚までの採集が限界です。一方、魚体標本の採集を目的としてIKMTや中層トロールが使用されますが、これらは,網口が定型ではないので採集物の定量化は非常に困難となります。

このように魚の成長段階にともない、網に対する回避能力が向上し定量性の保証が困難になることがわかります。各成長段階のうち、仔稚魚から未成魚のようなマイクロネクトンについては漁業において対象とすることがほとんどなかったことから、その生態的な情報がほとんど得られない状態でした。そして、その採集具も開発途上の段階でした。ここで,著者が昨年まで北大大学院で従事していた研究、マイクロネクトンを対象とした採集具フレームトロール(FMT:Framed Midwater Trawl、方形網口を有する中層トロール網)の開発研究について紹介します。

FMTの概要

図4
  これまで稚魚採集に用いられてきた採集具では、網口面積が小さく曳網速度も遅いため、遊泳力のある稚魚や未成魚を採集することは困難でした。そこで、遊泳力のある稚魚や未成魚を採集できる採集具としてFMTを考案しました(図4)。

  網口は一辺2~4 メートルの正方形、網長さ8~13 メートル、目合は稚魚を確実に網内に保持するためにすべて8 ミリメートルです。網には、曳網水深を船上で監視できる水深計、網の対水速度、網口の姿勢、水温等を計測する機器を設置することができます。

  実際の調査では、稚魚や未成魚の採集のほかに、網の操作性に関する網の抵抗、網内流速といった物理的現象も調べました。その結果、FMTは、これまで同規模の曳網類を扱うことが出来る研究調査船ならば、ウインチの許容応力内で十分に使用が可能であること、水深40、50メートルまでの表中層の採集ではあらかじめ繰り出すワープの長さを図5の関係から推測できることがわかりました。また、採集調査では、これまで採集が非常に困難だったマイワシ、カタクチイワシ、サンマ、サバ類といった小型浮魚類の稚魚、未成魚の採集に成功しました(図6)。

  FMTの特徴は定型網口、同一目合ということで、濾水量を算出でき、採集効率が分かれば、採集された稚魚の個体密度を推定することができます。FMTの目合は稚魚に対して十分に小さいので、FMTの採集効率を求めるには、入網率を把握すればよいのです。そこで、網の規模(網口面積)が異なる3つのFMTを用いて、曳網速度を3段階に設定した比較採集実験を行いました。その結果、曳網条件(面積、速度)、魚体長により、入網率が大きく異なることが明らかとなりました。そして、この入網率を定量化し採集効率を考慮することで、得られた採集物から実際にその調査海域に存在していた魚の分布密度を推定するという定量採集法を示すことができました。この定量採集法については、次回の機会にしたいと思います。
(中央水試 資源管理部 板谷和彦)
    • 図5
    • 図6